「持続可能な長距離旅行というものは存在しない」

エバースヴァルデ専門大学教授で「持続可能なツーリズム」を専門とするヴォルフガング・ストラスダス教授にインタビュー。教授は、ドイツでのプロジェクト以外にも、アフリカ、アジアおよびラテンアメリカにおいて持続可能なツーリズムのコンセプトを開発している。
エコロジーは今日では私たちにとってすっかりおなじみのテーマとなっています。自然食品市場のように、まもなく環境に配慮したツーリズムのブームが到来することになるでしょうか?
ツーリズムの分野では、過去にすでに一度、80 年代から 90 年代初頭にかけて、環境にやさしいツーリズムの需要がのびた時期がありましたが、ここ数年は再び下火になっていました。しかし気候変動という問題によって、急激な変化が起きています。環境への配慮が重要性を増しており、それは旅行に関しても同様です。それは当学科への出願数が増加していることにも見てとれます。
自然食品市場と違い、ツーリズムの場合には、サービス業者が多数関わっているという問題があります。運輸業者、ホテル、旅行会社、博物館、レストランなどです。これら一連の流れをすべて環境配慮型に整えるのは、エコロジカルなトマトを購入することにくらべてはるかに大変なことです。トマトの場合は有機認証を受けているかどうかが違うだけです。ツーリズムにも品質認証はあるにはあるのですが、あまりも種類が多すぎるのです。それに知名度もほとんどありません。
持続可能なツーリズムはドイツでどのような役割を果たしていますか?
多くの観光協会や旅行業者が、持続可能性というテーマを旗印として掲げています。しかしそこから実際に何が実行に移されているかは、まったく別の問題です。観光業界では現在、気候変動に関して激しい、ほとんどパニックに近いような議論が交わされています。世論からの圧力も増しています。しかし問題なのは、実際には反対の事態が生じていることです。つまり、航空機を使った旅行の頻度は、格安航空会社が数多く存在することもあり、激増しているのです。これには政治で歯止めをかけることが必要かもしれません。
気候をめぐる議論とは別に、社会的な持続可能性という分野においても、ここ数年で動きが生じています。旅行先の地域に対して責任を負うという考え方が受け入れられてきています。具体的には、現地に雇用を創出したり、地域の製品を購入するといったことです。
気候変動というキーワードですが、これを聞くと、スキー場で人工雪を使う割合が増えていることが連想されます。しかしこれは持続可能性とはほど遠いように思えます。
まったくそうですね。気候変動の議論には二つの観点があります。まずはドイツのほとんどのスキー場の例に見られるように、ツーリズムそのものが気候変動からダメージを受けているということです。これにより、スキー客は高地の氷河につくられたスキー場や、あるいは北アメリカのような目的地に鞍替えし、それによって事態がさらに悪化することになります。二つ目は、ツーリズムも温室効果の原因となっているという点です。この二つの観点は、別々のものとして分けて考えることはできません。観光業者と旅行者は、気候変動に自身が与える悪影響を少なくする必要があります。
ドイツ人は世界一の旅行好きです。ドイツ人旅行者にとってエコロジーという視点はどのような役割を果たしているのでしょう?
誰もが貢献したいという気持ちは持っています。しかし、だからといって何かをあきらめようとする人はほとんどいないのです。これは特に、移動手段に関する状況を見るとはっきりわかります。ホテルと飲食に関して言えば、環境にやさしく振舞うのはまったく難しいことではありません。しかし、旅行の行きと帰りのエネルギー消費は避けることができないのです。旅行の目的地を近場に変更すれば別ですが、そうしようとする人は多くはありません。自然食品の場合のように、いわゆる「意識の高い消費行動」にとって重要なのは、まずは品質、健康、そして快適さです。その場合、環境保護は、あればうれしい二次的な効果に過ぎないのです。
長距離旅行も持続可能なものにすることができますか?「アトモスフェア」 のようなカーボンニュートラルプログラムに参加することには何か意味があるでしょうか?あるいはこれらも単なる気休めに過ぎないのでしょうか
長距離旅行を持続可能におこなうこと自体は、そもそも無理です。しかし、排出した有害物質を理にかなった形で埋め合わせれば、気候への悪影響を部分的に相殺することはできます。「アトモスフェア」のようなプログラムは、私にとっては気休めのレベルをはるかにこえるものです。なぜならこのプロジェクトは、入念に選定と認証が行なわれており、他の部分で実際にエネルギーが節約されているからです。ツーリズムは、開発途上国にとっては外貨の稼ぎ手であり、非常に重要な産業です。しかし残念ながらこのことは、現在、観光産業によって全く何も対策をとらないことの言い訳にされています。そもそも、航空機の運行が圧倒的に多いのは、先進国間の移動です。北アメリカへの短期旅行は必要のないものです。経済的にみても、必要のないものなのです。
あなたはドイツだけでなく、たとえば中米においても持続可能なツーリズムというテーマに取り組んでこられました。ソフトツーリズムという考え方が開発途上国で受け入れられる見込みはあるでしょうか?
現在のニカラグアがちょうどそうなのですが、ある国がツーリズムブームを経験すると、残念ながらそのブームは持続可能なものとはまったく違う展開を見せる場合が多いです。さらに、そうした国々には環境意識が乏しく、環境マネージメントのための能力がまったくないことがあります。そうなれば、ツーリズムは状況をさらに悪化させることになりかねません。しかしこれはツーリズムの本質そのもののせいではなく、これらの国々の構造に不備があるためなのです。開発援助団体は、旅行地に欠けているそのような能力を構築し、ツーリズムを持続可能な軌道に導くために活動するべきでしょう。コスタリカなどは、その一例です。
観光業界に対して何を求めますか?
大手旅行会社には、環境を保護し、エネルギーと水の節約を可能にする環境マネージメントシステムを現地で作り上げる義務があると私は考えます。もう一つのテーマは、社会的な責任、つまり「企業の社会的責任」です。このテーマは、グローバル化が進んだ現代、すべての産業部門に関わるものです。概して大手企業は自身の責任を認識していると思いますが、観光業における取り組みはまだ十分とは思われません。例えば、ホテルは食材を輸入するのではなく、地元の農家から調達する、というようなことをすべきでしょう。
エバースヴァルデでは、持続可能な発想ができる観光業の専門家を養成しています。教育の重点はどこに置かれていますか?
マスター課程の学生の60 %が、例えば景観計画、自然保護、地理学など環境関連分野を学んできています。この学生たちは持続可能性が何を意味するのかすでに知っているので、あとはツーリズムの経済的側面についてもっと知る必要があります。20 ~ 25 %は人文科学、民族学、ドイツ学といった社会科学分野の出身です。彼らにとっては、エコロジーも経済も初めて学ぶ分野となります。すでに観光業界で働いた経験がある者も、若干数おります。彼らに対しては、エコロジー教育が最も重要となります。当課程のモジュールは、こうした様々なプロフィールを考慮に入れた上で作られています。これによって学生たちも、互いに多くの事を学ぶことができるわけです。全員に共通して重要な分野は、ツーリズム計画、マネージメントおよびマーケティングです。
最後に、これから旅行をしようとする人たちに助言をお願いします。持続可能な旅行をするためには、どうすればいいのでしょう?
まずは、環境マネージメントのシステムを備えた宿に宿泊すること。二つ目には、地元で栽培されたオーガニック食材を出すレストランで食事をすること。三つ目は、短い休暇の場合には近場を選び、できればバスか列車で出かけること。長距離の旅行の場合は、もちろんこれをやめろとは私は誰にも言いたくありませんから、なるべく長期間出かけられるようにしましょう。短期旅行を何度もするのは避けましょう。それができないということであれば、飛行機の移動で排出された二酸化炭素を、認定を受けたプログラムで相殺するという方法を取るといいと思います。
フライブルクで政治学とロマン文学を学ぶ。現在はミュンヘンでフリージャーナリストとして活躍。
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2008 年 3 月














