選ばれた、というだけではだめ – ユネスコ世界遺産というラベルに持続可能な開発を託す

さまざまなラベルが大人気だ。社会的側面に配慮して生産された「第三世界」の製品に与えられる「フェアトレード」、清潔な浜辺に対して与えられる「ブルー・フラッグ」、ドイツでエコロジー農業で生産された食品に国が与える認証「ビオ」など。このようなラベルは、消費者に対し、そこに記されているものが本当に「中に入っている」ことを保証するものだ。文化的な名所、あるいは自然景観地の場合は、ユネスコの世界遺産に登録されていることが、そのような保証になっている。
世界文化遺産は、観光地同士が客の争奪合戦を繰り広げる市場において、鍵となる資本だ。世界遺産に登録するだけの魅力があると認められれば、ここにも汲めども尽きぬ観光需要が生まれるに違いない..。
世界遺産への登録を申請する動きの裏にそのような期待があることは、珍しいことではない。だから、世界遺産の数が増加する一方であることも、驚くには値しない。現在、世界遺産として世界140 ヶ国の851もの文化遺産および自然遺産が登録されています。ドイツだけでも、32 の保護文化財が登録されています。
古代ローマという起源に命を吹き込む
ドイツ国内に残るかつてのローマ帝国国境の防壁であるリーメスは、2005 年以来、ドイツにおける「世界遺産クラブ」の最も若いメンバーとなっている。英国にあるハドリアヌスの長城とともに、リーメスは「国境をまたいで存在する世界遺産」の一部、つまりローマ帝国のかつての国境線の一部を構成するものだ。世界遺産に登録されたことを受けて、リーメスの町、アーレンは、ここを訪れたいと考える観光客の数が一気に増加することを見込んでいる。しかし観光客を迎え入れる準備は万端だ。新しいリーメス博物館は、多くの特別展や楽しいイベント、そして2年おきに開催される「ローマ・デー」などを通じて、来館者に「ローマ史のおもしろさ」を伝える。かつてアルプスの北側で最大のローマ騎兵の城砦であったこの町は、まさにこうした活動のなかに、自らのアイデンティティと使命を見出しているのだ。つまり、古代ローマという自らの起源を明らかにし、それに再び命を吹き込み、過去からパワーと資本、新しい展望を獲得しようとしているのである。


文化遺産を学ぶ
旧市街が 2002 年以来、ともに文化遺産に指定されているシュトラールズントとヴィスマールは、歴史的文化遺産の活性化と保存のためにほかの方法を選んでいる。ハンザ都市である両都市は、世界の隅々に出かけていって積極的な交易を展開していたかつての「船乗り」の末裔として、その卓越した歴史的意義を今に伝えようとしている。プロジェクト「文化遺産をアクティブに学ぼう」は、児童生徒に歴史に対する関心を持ってもらうことをめざしたものだ。まず、生徒たちは家族内での文化的な遺産を研究し、それを発表する。次に、自分の町にある世界遺産の特質と、その維持と開発に関わる問題に取り組むことになる。軋轢が生じることは目に見えている
この二つの例を見ると、ユネスコのお墨付きを得ることは、宝くじで大当たりを引くのとほとんど同じであるかのような印象を受ける。しかし、ザンクト・ガレン大学の見解は、そのような期待が的外れであることを指摘する。世界遺産というラベルを得ることで、確かに世界的な知名度は上がる。しかし、すでにそれ以前に世界的な観光地として知られていた場所、例えばアーヘン大聖堂、ウィーンのシェーンブルン宮殿や、年間3500万人の宿泊客と 1400万人の日帰り客が訪れるボーデン湖などは、世界遺産になったからといって特に得るところはない。しかしそこを訪れる客は、世界文化遺産なのだから最高の体験ができるだろうと、ますます大きな期待を寄せることになる。これによって、観光業界には、価値の高い本物の文化プログラムを開発し提供するという圧力が一層強くかかることになる。世界遺産登録と同時に、ユネスコからは数多くの義務も課され、これを遵守しない場合には、登録が抹消されることもある。このような事情から、都市計画と交通網の整備計画、農業と文化財保護など、さまざまな利害関係者の間に軋轢が生じるだろうことは目に見えている。
例えばシュトラールズントのケース。リューゲン島とフォアポンメルンの本土との間に橋を建設する際、それが世界遺産に伴う取り決めに抵触することが問題となった。最終的には、シュトラールズントの旧市街が持つ歴史的な町のイメージを損ねないよう、ユネスコ委員会と協議の上、美観を損ねるコストのかからない橋ではなく、高価な斜張橋を建設することで合意に至った。ケルン大聖堂のケースでは、 2006 年 7 月まで、大聖堂が危機にさらされている世界遺産のリストである危機遺産リストに載るという状態が続いていた。これは、市の建設政策の結果、この大聖堂が高層ビルの谷間に位置することになり、景観が損なわれる恐れがあったためだ。市当局とユネスコは協議を重ね、最終的に大聖堂の印象は保たれ、それによって大聖堂の世界遺産としての地位も維持されることとなった。しかし問題が今日まで解決されていないケースもあります。ドレスデン・エルベ渓谷に四車線のフォレスト・キャッスル橋を建設する計画をめぐり、ユネスコと当局の間で争いが起きているのだ。エルベ峡谷は、世界遺産としての地位を失う危機に瀕している。
つまり、世界遺産に指定されることは、多くの名声と栄誉だけでなく、同時に、多くの責任ももたらすのである。約束された品質は「製品のなか」にも認められなければならないからだ。すなわち、「そこに暮らす人々の日常生活に調和を保った経済と文化の発展が見られ」、そして「成熟した観光産業が、魅力溢れる自然と文化を通じてそこを訪れる観光客にも、そこに暮らす人々にも恩恵を与えていること」が必要なのである。
言い換えれば世界遺産というラベルは、「選ばれた」場所に暮らす人々とその地の政府に持続可能な開発を求める一種の委託事業ということになる。しかし、その持続可能な開発が具体的にどのような形でおこなわれるべきなのかは、関係者たちが直接話し合い、決めていくしかないのだ。
バート・グライヒェンベルク(オーストリア)のヨアネウム専門大学で教鞭をとる。「ツーリズムにおける健康管理」課程で、持続可能な観光開発と観光倫理学を担当。
翻訳:WORTwelt
Copyright:Goethe-Institut e. V., Online-Redaktion
2008 年 3 月














