ハム・ヤン・ア Ham Yang Ah





ハム・ヤン・ア(1968-)は、アムステルダムとソウルで制作に取り組んでいる。これまで世界を舞台に活動してきた彼女は、ビデオから彫刻にいたる多彩なメディアを用いて、自分が目の当たりにし、理想に掲げる自然や社会を伝えようとする。ソウル展では、《Nonsense Factory》という架空の空間にまつわるシュールな物語についてのビデオ、写真、スケッチ、ネオン管のインスタレーション、立体作品と組み合わせた、揺れる舞台を展示した。フィクションによる作品の他の部分が、開発主導の社会や、理想主義に基づいた価値観の危うさといった現代の諸問題を扱う一方で、揺れる舞台は、民主主義体制を建築的に視覚化したものとなった。このように、数々の社会の仕組みに鋭いまなざしを向け、人々の暮らしや社会のシステムを描き出すプロジェクトを手がけてきたハムだが、広島展では、これまでの試みを次の段階に進めている。深刻で悲惨な状況下にある人々を救済できないことを示した、今日の弱体化した社会体制を鑑みながら、ハムは芸術家としての自分の役割を再検証するのである。新作《眠り》では、同時代の歴史に刻まれるものをとらえ、表現するために、まずは、人間の感情や心理の表れに目を向けた社会批判の方法を作り上げた。眠りを人間と社会の関係の隠喩として用いることで、《眠り》は、目の前の恐怖に対する現代の反応と、それを和らげることのできない体制を映し出している。

 

「Nonsense Factory」は、仮想スペースを描写する、作家が作り上げた超現実的なストーリーである。「Factory」の部屋は6つある。「第1の部屋:セントラルイメージボックスの操作部屋」、「第2の部屋:福祉政策の立案部屋」、「第3の部屋:クーポン部屋」、「第4の部屋:アーティスト部屋」、「第5の部屋:地下工場」、「第6の部屋:未来の工場のための青写真部屋」。これらの6部屋は、現代社会の以下のテーマを扱う。操作されたイメージの問題、思想としての幸福、資本経済と貨幣経済、文化的スノッブ根性、理想主義的価値の失敗、継続的な成長の追求に内在する果てしない競争。「Nonsense Factory」は、ビデオ、写真、ドローイング、ネオン、彫刻など多様なメディアを通してこのストーリーを伝えている。
「ふぞろいなハーモニー(Discordant Harmony)」展のために設置された舞台は、そのテーマを「地下工場」から得ている。この舞台は、民主的な社会システムを建築的な方法で可視化している。舞台の角に作りつけられた作業机と椅子は、不確かな時代の社会の重力として、労働や創造の価値を問うている。ビデオが舞台ともに発表され、舞台上の人々によるパフォーマンス、職人と彼らのクラフトマンシップ、技術や考えを捉えたビデオと、現代生活の問題を扱うもう一つのビデオが上映される。「Nonsense Factory」を通し、作家は、表象される現実の不条理とその結果としての落胆だけではなく、現実を変える可能性をも提示している。

《The Sleep》では、100人もの人々が体育館に集まり、一緒に眠るさまが映しだされる。公衆の健康を促進するためのこの施設は皮肉にも、危機や災害の際には多数の人々を収容するため、しばしば避難所として利用される。体育館がこのように使われた最近の記憶として、社会システムの不条理を露呈した、韓国黄海での2014年フェリー沈没事故がある。この作品では、人々と社会との関係を表すメタファーとして「眠り」を用い、直面する恐怖と、それを緩和することができない社会システムへの反応を映し出している。

ソウル国立大学、大学院で学士、修士号取得後、ニューヨーク大学大学院メディア専攻で修士号取得。2006年から2007年までライクスアカデミー(アムステルダム)レジデンスプログラムに参加。個人の生活や社会システム制度を描写する主題に一連のプロジェクトに取り組むを展開している。彫刻、パフォーマンス、インスタレーション、ビデオ映像など幅広いメディアを用い、地域的また地球的規模から、国家と国民との入り組んだ複雑な関係に地域的また世界的規模で、影響を与えている重大な社会テーマ問題を問い続けているを繰り返し議論してきた。「Adjective Life in the Nonsense Factory」(アート・ソンジェ・センター、ソウル、2010年)、「Transit Life」(錦湖美術館、ソウル、2005年)、「Dream…in Life」(インサ・アート・スペース、ソウル、2004年)などの展覧会で作品を発表。アーティスト主導によるプロジェクト「be mobile in immobility」(DEPO、イスタンブール、2010年/トータル美術館、ソウル、2011年)をオランダ、トルコ、韓国のアーティストたちと共同企画。2013年、韓国人芸術家賞にノミネートされ「Nonsense Factory」プロジェクトを韓国国立現代美術館(ソウル)で発表韓国人芸術家賞推薦により展示。