子供のコミック

子供のためのコミック

ドイツのコミックの歴史が始まったころは子供向けのコミックが数多く存在していましたが、第二次世界大戦後になるとその数は著しく後退し、ふたたび盛り返すのはようやく1989年の東西ドイツ統一後になってからのことです。その原因はさまざまですが、過去の歴史を振り返りながら見ていくのがもっとも分かりやすいでしょう。

年齢を問わず楽しめるドイツ最初のコミックの一つとなったのが、エーリッヒ・オーザーがe. o. プラウエンというペンネームで日刊紙『ベルリナー・イルストリールテ』に連載したコミック『父と息子[Vater und Sohn]』[邦訳『おとうさんとぼく』岩波少年文庫、1985年(絶版)、『最高だね!ヒゲ父さん』『ごめんね!ヒゲ父さん』『大好き!ヒゲ父さん』青萠堂、2005年]です。愛らしい二人の家族の姿を描いたこのコミック・シリーズは、1934年に初めて印刷されると、たちまち幅広い層のファンを獲得しました。『父と息子』は、現代性とユーモアを失うことなく、今日でも読者をにこにこと笑わせてくれます。

第二次世界大戦後のコミック市場では特定の年齢層を狙う傾向がいっそう強まり、結果として子供のためのコミックと大人向けのコミックとが分離していきました。その一例となるのが、週刊イラスト雑誌『シュテルン[Stern:星]』の子供向けの付録『シュテルンヒェン[Sternchen:星印]』の創刊です。そこには、なぞなぞやゲームの遊び方、子供向けの記事とならんで、ローラント・コールザートの連載コミック『ゴム製の馬ジミー(Jimmy das Gummipferd)』が掲載されました。ガウチョ・フリオと魔法の馬ジミーは、冒険を重ねるなかで辿り着いた異国の地で幻想的な怪物たちと闘わなくてはなりません。コールザートは、亡くなるまでの24年ものあいだ、サスペンスとユーモアあふれるコミック・シリーズを描きつづけましたが、彼が遺した作品は、現在ではドイツ・コミックの歴史を飾る紛れもない古典の一つに数えられています。

遠い見知らぬ国々や、さらには未知の世界すらもが、旧東ドイツの子供向けコミック『ディゲダグス(Digedags)』の中心を占めています。ディグ、ダグ、ディゲダグという冒険心に満ちた三人組をつくりだしたハネス・ヘーゲンは、1970年代まで彼らを主人公としたコミックを描きつづけました。『ディゲダグス』のあとを受け継いだ『アプラファクセ(Die Abrafaxe)』も、同じく全世界で読まれています。

何十年ものあいだ、子供向けのコミック市場と大人向けのコミック市場は、たがいに分離した状態がつづいてきました。読者にとって両者の境界を無視することは簡単なことでしたが、コミック作家たちは、まさに「大人向けコミック」が台頭した1970年代という時期に、もしも何か変わったことをしてしまったなら、自分たちの「よい」評判に傷がついてしまうのではないかと恐れたのです。そのような状況に変化をもたらす最初のきっかけをもたらしたのが、ドイツ語圏の前衛的なコミック作家たちの実験精神でした。CX・フートをはじめとする芸術家たちが、必要のない慣習をあっさり無視して、あらゆる年齢層に向けたコミックをつくるという挑戦に果敢に応じたのです。フートの作品集『23五八九(Das 23 fünf acht neun)』では、動物園を訪れたリルポップとモップスが、そこで出会った幻想的な生物のケツィバンと友達になるべく張り合います。CX・フートのコミックを見ると、子供がクレヨンで描いた童話や絵本を思い出させます。それともに、フートの作品は、一つのコミック作品のなかで、コマや伝統的な説話の構造から分離させたかたちで言葉や絵をもちいるという実験に見事に成功しています。

児童書のイラストレーターであるオレ・ケネツケは、『ドクトル・ドードーが本を書く(Doktor Dodo schreibt ein Buch)』によって、子供向けではあるものの、大人が読んでも楽しめるようなコミックを制作するという課題に勇気をもって取り組みました。というのも、ユーモアあふれるこの作品が語っているのは、アイディア探しからプロット展開にいたるまでの、一冊の本を執筆することの難しさをめぐるストーリーなのです。そして、そこでは、数多くの文献が相互参照されていることによって、大人でも大いに楽しめるものとなっています。

ヴォルフラム・フロムレットのストーリーにヘニング・ヴァーゲンブレートがイラストを添えた児童書『月と明けの明星(Mond und Morgenstern)』は「世界で最も美しい本」コンクールで受賞しました。ヴァーゲンブレートの手による挿絵は、絵画、グラフィック・アート、イラストレーション、コミックを見事にブレンドさせており、溢れんばかりの色彩とかたちの多様さによって読者の心を惹きつけます。

かつてコミック作家だったヴァルター・メアスは、現在では彼の主要な関心の的である小説の執筆に全力で打ち込んでいます。しかしながらメアスは、『エンゼルとクレーテ(Ensel und Krete)』や『ルーモ(Rumo)』といった幻想的でメルヒェン的な物語に素晴らしいイラストを添えることを避けるわけではありません。というのも、これまでと同じくメアスは、たしかに限定的になったとはいえ、言葉と絵とを同等のものとして結び合わせることに関心をもっているからです。

ウルフ・Kは、コミック作家と児童書のイラストレーターとして活動しています。アーティストにして作家であるウルフ・Kが発表した作品は、明瞭かつ緻密な絵のスタイルと詩的なストーリーのために、読者の年齢を問うことなく、あらゆる人々に向けられたものとなっています。さらに、マルティン・バルトシャイトの本『小さなパウルさん(Der kleine Herr Paul)』にウルフ・Kが添えたイラストの数々は、きわめて優雅で表現力に富んでおり、テキストと本当にぴったりマッチしています。

アタクは現在、イラストレーションの教授として活躍しながら、児童図書の制作を優先して取り組んでいます。彼はムリエル・ブロッホによる物語に合わせて、アフリカのメルヒェン『死はどのようにして生き返ったか』の挿絵をつけ、ドイツの出版社ヤコビー・ウント・シュトゥアルト刊行の児童図書『おかしくなった世界』を制作しました。ハインリヒ・ホフマン生誕200年には、アタクはフィル(フィリップ・テーガート)と一緒に、ドイツで最も成功を収めた児童図書のひとつを再びよみがえらせ、『もじゃもじゃペーター おかしな絵ものがたり』(スイス、Kein & Aber 出版)を制作しました。フィルは、落着きのないフィリップや上の空のハンスについて新しい解釈を施し、オリジナル作品の厳格な道徳を何倍も誇張して描いていて、アタクの挿絵がフィルの解釈を絶妙に補っています。

さまざまな制約からようやく解放されたドイツのコミック作家たちは、今日ではふたたび、いかなる年齢層の読者でも楽しめるようなコミックやイラストによって実験をおこなっています。

マティアス・シュナイダー
文化研究者・フリーランスの文化ジャーナリスト。コミックを主題とした映画上映会や展覧会のキュレーターを務める。

版権: ゲーテ・インスティテュート・ストックホルム

2005年3月

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キツネたちのコミックが再開―『フィクスとフォクシィ』の新刊

「iPhoneをもったフィックスとフォクシィ」© ワールドコピーライト・ロルフ。カウカ 1953/2000年/プロメディア社 2001/2010年。版権所有
2010年初めにドイツ・コミックの古典『フィクスとフォクシィ』が、ニュー・ヴァージョンで再登場しました。

文献リスト

ダウンロード用の 文献リスト では、外国の図書館がドイツ語のコミックを購入するためのあらゆるヒントがまとめられています。