共生のための議論 ミュンスター彫刻プロジェクト 

Skulptur Projekte Münster
Skulptur Projekte Münster

2017年6月から10月までの期間、ミュンスター市は10年に一度の大展覧会「ミュンスター彫刻プロジェクト」を開催し、観客を町に誘う。世界のアーティスト35名が参加する今回、デジタル化の時代にあって、身体性をテーマに様々なとらえ方が作品として表現されている。

40年前、ミュンスター市民の誰がこのプロジェクトの現在を予見したであろう。市と市民の民主的な対話の模範として、また創設から40年たった今も、公共のなかの芸術の形やあり方について問うものであり続けているというこの存在を。それどころか、ジョージ・リッキーのキネティック・アート「三枚の正方形」をめぐって、公共の場で賛否が議論されたことが実はこの美術展の発端であった。

ミュンスター市民は、当時できて間もない市の芸術局によるこのアート作品の買い入れと設置の決定に対して、怒りの投書や公共の場で猛反対を表明した。
作品が無償で提供されることとなっても、さらにはアーティスト自身の手によって作品が設置されるという事に及んでもなお、市民の公の抗議が収まるまでは時間を要した。当時の新聞記事がその状況を分かり易く記している。

「アーティストはどこだ?と昨日訪ねた通行人がいた。そしてその作家、ジョージ・リッキー(67才)が自分の作品「三枚の正方形」をピカピカに磨いていたその本人であったことに驚きを隠せなかった。間もなくすると、その立体作品はかすかな風を受け、高さ4、5メートルのところで回転し始め、太陽の光に輝いて見えた。ミュンスター市のキネティック・アートの作品第一号にして初の公共の現代アート作品は、エンゲレンシャンツェ駐車場でお披露目を果たした。」


George Rickey: Drei Rotierende Quadrate Variation II,  1973 (Rasenfläche auf der Engelenschanze gegenüber dem Museum für Lackkunst) George Rickey: Drei Rotierende Quadrate Variation II, 1973 (Rasenfläche auf der Engelenschanze gegenüber dem Museum für Lackkunst) | Stadt Münster このような軋轢を以後回避する目的で、市民にもっと現代アートと接してもらう機会を作るためにも、市は「彫刻プロジェクト」を創設した。1977年以降、同プロジェクトは10年おきの間隔で開催され、世界中のアーティストに作品を制作してもらい、展示している。

社会のアクチュアルな問題をテーマに、この展示に向けて作られた作品は町の広範囲に拡散して置かれ、3ヶ月間無料で観ることができる。前回の2007年には推定50万人の芸術愛好家が世界中からミュンスターの「彫刻プロジェクト」に足を運んだと言われる。

公共vs.個人の領域

第5回目となる2017年の展覧会では、ひとつにはこのデジタル化時代における身体性がテーマとなっており、もうひとつにはスノードン・スキャンダル以降の時代における公共対個人の領域の関係性を取り上げている。その実現のために、カスパー・ケーニヒ、マリアンネ・ヴァーグナー、ブリッタ・ペータースの3人のキュレーターは、パフォーミング・アートもプロジェクトに取り込んだ。それは従来の彫刻とデジタル領域の物体としては存在しないものを結ぶ架け橋的な役割を担うものとしてで、「形状的な出現と消滅」というテーマと客観的に向き合うことを可能にする手段として、である。

公式なパフォーマンス・プログラムのほかに、ギンタースドルファー/クラーセンが演劇集団の歌舞伎ノアール・ミュンスターと組んで作る新作や、アラム・バートホルがプレス発表で説明している「棒パン方式」で携帯電話を充電できる火のインスタレーションなども行われる。


 参加アーティスト

Ei Arakawa "Tryst", Taka Ishii Gallery Tokyo 2017 Ei Arakawa "Tryst", Taka Ishii Gallery Tokyo 2017 | Ei Arakawa "Tryst", Taka Ishii Gallery Tokyo 2017 2017年の今回選ばれた35名の参加アーティストの中には、日本の造形作家の荒川医(1977年、福島県)とパフォーミング・アートの田中功起(1975年、栃木県)が含まれている。ベルリンで活躍中の荒川医は、ミュンスターにおいても近作「Tryst」(タカ・イシイギャラリー東京、2017年と同じように、造形アートとパフォーマンスの関係に切り込む。アーゼー湖の背後の芝生で行われる音のインスタレーションでは、現代画がLEDの壁に投影され、壁の間で音楽を体験することができる仕組みだ。

田中功起はこれまで危機と災害を作品として発表しているが、ミュンスターでは„How to live together?“をテーマとしている。このプロジェクトのために8名の参加者と事前にワークショップを行い、難民問題に対する様々な反応が映像として展示される。その内容は、このミュンスターの彫刻プロジェクトが創設以来中心に据えているテーマを、アクツィオーンや対話の記録映像で現代のコンテキストに具体的に置き換えるもので、グループや社会の中での共生にとって公に議論することの重要性を強調している。
 

ミュンスター彫刻プロジェクト」は2017年6月から10月まで開催。ミュンスター市内の様々な場所で世界のアーティスト35名の作品を無料で公開。