Berlinale-Blogger 2017 逃れた過去から、逃げ切れるか

Mr Long - Sabu
© Mr Long - Sabu

人々との交流を通じてひと時の安らぎを得ながら、一人の殺し屋が人間性を取り戻していく物語を、SABU監督は、偶然と運命というファンタジックな世界観で描き出した。
 

物語は台湾の繁華街、ヤクザ者たちのお喋りと血の雨によって幕を開ける。殺し屋ロン(チャン・チェン)は殺しの任務を終え、ホテルに戻ると水の入ったボウルで手の血を洗い流す。そしてその同じテーブルの上で自ら小籠包を包みだす。

次の任務は東京六本木だ、舞台は東京の夜に変わる。東京の高層ビル群の夜景、ギラギラとしたネオンの繁華街、ナイトクラブの毒々しい情景—―台湾と東京の夜の風景は似ているようで大きく違う—―ここまでは暴力に塗れたアンダーグラウンドな物語であった。

しかしロン、あっさり任務に失敗。
……えっ!?失敗した!?と呆気にとられた。ヤクザ者にリンチされる様子は痛々しいが、次の瞬間、ヤクザ者から恋人リリー(イレブン・ヤオ)を取り戻そうとする賢次(青柳翔)の介入でできた隙をついて、ロンは逃げ出すことに成功する。トラックに潜り込み、満身創痍で辿り着いたのは、日本の何処か、まさにそのリリーがいる田舎町であった。
 
見知らぬ人々との出会い

運命は他人の手によって時に思わぬ方向に向かうことがあるのかもしれない。小さなきっかけが、誰かの、そして連なるように大勢の運命を変質させていく。その連鎖が無限に続いていく――そう思わせるような、意外な展開であった。

一人の少年が、水、衣類、そして何処かの畑から抜いてきたであろう野菜を、一言も喋らないままロンに与える。廃屋で顔を洗ってやっと一息ついたロンは、拾ったお玉と鍋を使って、野菜を調理し始める。(殺し屋がお玉とお鍋を手にしている図というのは、なかなかちぐはぐで奇妙なものだ)この料理がひょんなことから村人たちの評判となり、ロンは台湾ラーメン屋台を開くことになり、その屋台は大変な盛況となるのだが、その経緯が見もので、観客の笑いを誘った。
 
ロンとリリー

本人たちの知らぬところで運命は導かれているのかもしれない。それとも賢次の強い愛が少年の母親リリーの元へロンを呼び寄せたのか。リリーもまた、壮絶な過去を振り切ろうとしている。東京の街中を懸命に走る彼女の姿、必死に子供を育てようとする姿は美しく哀しい。ロンとリリー、二人は共に過去から必死に逃亡しようとしているのだが、両者とも過去を吐露することはない。二人はほとんど会話をせず、しかし次第に心を通わせていくのである。一時の安らぎ、殺し屋であったロンの表情やちょっとした仕草の変化、リリーの表情が穏やかであるだけに、明暗が分かれる逃亡の結末は衝撃的だ。