博物館のバーチャル・ワールド 体験としての物語

Google Arts Culture Hoederath
© Google Arts Culture Hoederath

バーチャル・リアリティは、様々な場所と周辺環境に三次元の世界で身を置くことを可能にする。その世界はまだデジタル画像で作られていることが多いものの、博物館ではすでに様々な形でバーチャル・ワールドの活用が進んでいる。歴史的なコンテンツが、全く新しい形で体験可能なものになっているのだ。
 

エルプフィルハーモニー・ハンブルクのオープニングセレモニーは壮観だった。それを体験できたのは、その場に居合わせた人だけではない。セレモニーの様子は全世界でバーチャルリアリティを通じてライブで直に体験できたからだ。それを可能にしたのは、シンプルな「カードボードメガネ」。スマートフォンをダンボール製の箱に差し込んでその箱を頭にセットすれば、ユーザーの目の前にスマートフォンの画面が置かれる形になる。コンサートホールからのライブ映像は、この画面上で左目と右目のそれぞれに投影されるわけである(https://www.youtube.com/watch?v=__4EmRRYbO8)。こうして「観客」は、三次元のパノラマを満喫できたわけだが、実はすでにその前に、完成した建物の中を360°「見て回る」ことはできた(https://www.elbphilharmonie.de/de/virtuell)。案内してくれたのは各フロアを飛行したドローンである。


物語ではなく、体験としての歴史

ここ数年のVRゴーグル・ブームを受け、バーチャル・リアリティは次第に文化施設や博物館に浸透しはじめている。しかし、そうした施設で没入型の体験を追加提供する意味とは、実際のところどこにあるのだろう?A MAZE(http://amaze-berlin.de)の創立者でありアートディレクターであるトルステン・S・ヴィーデマンは、これがどこでも有意義であるわけではない、と認める。「バーチャル・リアリティを導入したからといって、それで常によりよい物語が語れるというわけではありません。相互作用(インタラクション)が物語を利用することで、物語がよりよく体験できるようになるのです」。 A MAZEは、VRコンテンツを中心としたインディーゲームのためのビデオゲームフェスティバルだ。
ヴィーデマンの言うことには説得力がある。何といってもヴィーデマンは昨年、パフォーマンスの一環として、まる48時間をバーチャル・リアリティの中で過ごしているのだ。眠る時すらVRゴーグルを外さなかったほどである。ビジターは、ヴィーデマンがちょうど体験していることをモニター画面上で追うことができた。

ポイントは「体験」。VRにおける「ものがたり」とは、もはや「ストーリーテリング(語る)」ではなく、いまや「ストーリーエクスペリエンス(体験する)」なのだ、とヴィーデマンは言う。「ユーザーは、自分なりの物語を体験する。身体的にも精神的にもVRに入り込み、その空間を体感するのです」。VRコンテンツの監督は、画面上でユーザーが何に注意を向けるか、ないしは視線をどこに向けるかをコントロールすることはもはやできない。あらゆる方向を見回し、自分自身のためのだけの体験世界を発見する可能性は、ユーザーの手中にあるのだ。ヴィーデマンは言う。「ストーリーは大規模に作る必要があります。だから、以前は不動で固定されていたものを体験可能にできる博物館は、うってつけなのです。教養を新たに体験可能なものにするという可能性が生まれる。例えば、戦争地域でのできごとなどは、N24などのニュース放送よりもVRのほうがはるかに身近に感じられます。社会批判的なコンテンツを伝えたいのなら、VRは素晴らしい媒体です」。

 


空間の変貌

まさにその通り。VRがジャーナリズムに与えた新たな可能性は、博物館にもメリットとなるものだ。博物館を訪れる人は、文字通り「デジタルな生命」に目覚めた展示品とともに、バーチャルな発見の旅に出ることができるからである。フランクフルトのゼンケンベルク自然博物館(http://www.senckenberg.de/root/index.php?page_id=5247&preview=true)では、展示に特化したVRによってどのような体験が可能かを知ることができる。恐竜展示大ホールの2階にはVRステーションが設けてあるが、ここでVRゴーグルを装着すると、ホール全体がジュラ紀の光景に変貌を遂げる。骨格標本から血肉のついた恐竜に変身して動き回るディプロドクス。ホールの床からは木々が生い茂り、開かれた天井の向こうの空には翼竜が舞う。ベルント・ヘルクナー博物館部長はこのように説明する。「これが体験できるのは、このホールだけです。変貌の全容を見ることができるのは、この場所からだけなのです。バーチャル・リアリティは、展示物の代わりになるのではなく、展示物を補う役割を果たすもの。オリジナルを見たいという気持ちを起こさせるものなのです」。唯一の欠点は、インタラクションがないことだと言う。現在の技術水準では、VRゴーグルは一度に1人しか装着できないからだ。


教室に恐竜

しかし、本来のVRのハイライトは博物館を「持ち帰る」ことで、これはベルリン自然史博物館のコンセプトでもある。3,000万点を超える収蔵品を持つ同博物館では、昨年秋、バーチャル・リアリティの利用例として、カードボードメガネとスマートフォンを使って利用者1人あたり2点までの収蔵品を鑑賞できるようにした(https://www.naturkundemuseum.berlin/de/einblicke/neuigkeiten/erleben-sie-naturkunde-vr-bei-google-arts-culture)。このサービスの提供のため、同博物館のパートナであるGoogle Arts & Cultureはブラキオサウルス・ギラッファティタンをVRで開発し、360°パノラマをYouTubeで見られるようにした。そこでは、この恐竜の骨格を使い、その実際の姿と、それがゆったりと空間を歩き回る姿を見ることができる。

ベルリン自然史博物館オンラインPR・マーケティング部門担当マティアス・パウルは、種の多様性の維持や生息圏の破壊といった自然史に関わるテーマに、特にオンラインに慣れている若い世代に関心を持ってもらうことが狙いだと言う。「先月には、当博物館の非公開収蔵庫で特別にGoogle Expeditions(学校教育用のVRフォーマット)も制作されました」。この新しいVRフォーマットは、カードボードメガネを使って、授業の中でそれぞれのVRコンテンツを生徒に見せるためのものである。

 
  • Elbphilharmonie © Elbphilharmonie
    Die Elbphilharmonie in Hamburg
  • Der Saal der Elbphilharmonie in 360 Grad Ansicht © Elbphilharmonie
    Der Saal der Elbphilharmonie in 360 Grad Ansicht
  • Google Arts Culture Hoederath © Google Arts Culture Hoederath
    Google Arts Culture Hoederath
  • Google Arts Culture Hoederath © Google Arts Culture Hoederath
    Google Arts Culture Hoederath
  • Google Arts Culture Hoederath © Google Arts Culture Hoederath
    Google Arts Culture Hoederath
  • Im Senckenberg wirds virtuell © Alexander Oster
    Im Senckenberg wirds virtuell
  • Mit dem Diplo auf Tuchfühlung © Alexander Oster
    Mit dem Diplo auf Tuchfühlung
  •  Urzeit-Dschungel im Museum © Alexander Oster
    Urzeit-Dschungel im Museum
  • Dresden 360 Grad © Dresden 360 Grad
    Dresden 360 Grad
  • Dresden 360 Grad © Dresden 360 Grad
    Dresden 360 Grad
  • Dresden 360 Grad © Dresden 360 Grad
    Dresden 360 Grad

都市をデジタルで体験可能なものにする

バーチャル・リアリティは、もちろん、絶滅した生物を身近に体験したい場合のみに使える手段であるわけではない。新たな光景は、別の場所に身を置くだけでも見えてくるからだ。ドレスデン市は、プロジェクト「ドレスデン360」(http://dresden360.com/)で、すでに13の観光名所、建築物、歴史名所などをVRによって360°のパノラマで提供している。当プロジェクトのウェブサイトを訪問すると、由緒ある橋から賑やかなクリスマスマーケットまでを巡り、それぞれの場所について詳しい情報を得ることができる。

これらの場所は、カードボードメガネにスマートフォンを組み合わせて見ることもできるし、また、カードボードメガネのプロフェッショナル版と言える「本物の」VRゴーグルで見ることもできる。ドレスデンをビジュアル化するこの360°の撮影は、ドローンと高所撮影用三脚を使って行われた、とAgentur 360° SACHSEN社のクリストフ・ジーモンは言う。今年中に、ドレスデンとその周辺にある他の観光名所も多くここに加わる予定だ。ドレスデンを訪問する雰囲気を味わうには、VRはうってつけの手段だ。今のところは、それで十分なのである。