映画祭予告編
© Goethe-Institut Tokyo © TNYU
ロミー・シュナイダー ~その光と影~
2018年/ 115分/ ドイツ語・フランス語(日本語字幕つき)
1981年、世界的大女優ロミー・シュナイダーは、フランス、ブルターニュ地方のキブロンで静養のために数週間を過ごしていた。そこに、長年の友人ヒルデが訪れてくるが、加えてドイツから青年記者とカメラマンもやって来る。繊細なスター女優と野心的ジャーナリストの攻防が始まる。
1981年のシュテルン誌に掲載された実際のインタビューと、キブロンで撮られた白黒のポートレート写真に基づいて制作された作品。当時の雰囲気を再現した映像に、痛々しいほどに人間らしいロミー・シュナイダーが描かれている。自己顕示とメディア搾取、生への激しい渇望の狭間で揺れる映画スターの複雑な心の内に迫る。本作は2018年のドイツ映画賞にて7部門での受賞に輝いた。
監督:エミリ・アテフ
キャスト:マリー・ボイマー、ビルギット・ミニヒマイヤー、ロベルト・グヴィスデク
父から息子へ ~戦火の国より~
2017年 / 99分 / アラビア語(日本語・英語字幕つき)
ベルリン在住のシリア人映画監督タラル・デルキ(『それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜』)は、本作品の制作にあたりシリア北部の家族に2年半にわたり密着した。シリアで活動するアルカイダの関連組織ヌスラ戦線のメンバーを父親に持つ一家の元に滞在する。客として迎え入れられた監督は、戦火を目の当たりにする子供たちの生活を見つめ、特に長男と次男の成長を追った。観客はあるイスラム主義者のプライベートな側面、息子たちをイスラム国家の戦士に育て上げようとする父親としての側面を目にする。戦争の残酷さと家庭生活の内側とが絡み合う深いヒューマニズムの上に成り立ったこのドキュメンタリー映画は、2018年ドイツ・ドキュメンタリー映画賞をはじめ数々の賞を受賞している。
監督:タラル・デルキ
僕たちは希望という名の列車に乗った
2017年 / 111分 / ドイツ語(日本語字幕つき)
1956年、東ドイツの模範的労働者都市スターリンシュタットの高校3年生、テオとクルトは列車で訪れた西ベルリンの映画館でハンガリー動乱のニュース映像目にし、いたく心を揺さぶられる。スターリンシュタットに戻ると、自由を求め闘ったハンガリーの犠牲者に、授業中、1分間黙祷することを思いついた。そのことが誰も予測できなかった結果をもたらす。国家権力は少年たちの行動を反革命的行為と断罪、首謀者の名を挙げるよう詰寄る。卒業を目の前に、彼らは将来を大きく変える決断に迫られる。
監督・脚本のラース・クラウメは新人俳優を起用し実力派で脇役を固めた。原作となったのはディートリッヒ・ガーストの自伝的小説『Das schweigende Klassenzimmer』(沈黙の教室)。ドイツ戦後史の心に刺さる一章。
監督:ラース・クラウメ
キャスト:レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、レーナ・クレンケ
配給(日本):クロックワークス / アルバトロス・フィルム
未来を乗り換えた男
2018年 / 101分 / ドイツ語・フランス語(日本語字幕つき)
ドイツ軍の迫るパリを逃れ、ゲオルクはマルセイユに辿り着いた。鞄には、迫害の不安に耐え切れず自殺した作家ヴァイデルの遺品である原稿と手紙、そしてメキシコ大使館が発行した入国許可証を持っている。
港町マルセイユで、ゲオルクはヴァイデルのアイデンティティを盗み、船で渡航する機会を掴み取ろうとする。ある日、マリーに出会ったゲオルクは計画の変更を迫られる。『東ベルリンから来た女』で知られるペッツォルト監督は、アンナ・ゼーガースが1941~42年、亡命中に執筆した小説『トランジット』を原作とし、舞台を現在のマルセイユに移した。大戦当時と今の難民たちの姿が重なりあい、過去と現在が時空を超えてつながり、全ての物語は、この永久の「トランジット(中継)」地へと集結する。
監督:クリスティアン・ペッツォルト
キャスト:フランツ・ロゴフスキ、パウラ・ベーア、ゴーデハルト・ギーゼ
キャスティング
2017年 / 91分 / ドイツ語(日本語字幕つき)
初めて監督するテレビ映画にファスビンダーの『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のリメイク版を選んだ監督のヴェラ。繰り返しオーディションを行うが撮影初日を前に主役が決まらない。不安を感じ始めるプロデューサーや撮影チームをよそに、ゲルヴィンはそんな状況を歓迎している。オーディションを受けに来る有名女優たちの相手役として、台詞を合わせることが仕事だからだ。主演男優が突然役を降りることになると、ゲルヴィンはチャンスとばかり色めき立つ。ヴァッカーバルト監督はファスビンダーの複層的な原作に対応しながら、独自の作品世界を作り上げた。鋭い視線で、権力や欲望に支配された人間関係の深淵に切り込み、面白くも辛辣にドイツテレビ界のパワーゲームと依存関係に光を当てる。
監督:ニコラス・ヴァッカーバルト
キャスト:アンドレアス・ルスト、ユディット・エンゲル、コリンナ・キルヒホフ
プチ・ブルの犬
2017年 / 99分 / ドイツ語・英語(日本語字幕つき)
大志を抱きながらもパッとしない映画監督ユリアンはいくつもの助成申請を却下され、やむをえず農家で収穫作業をすることになる。ユリアンが共産主義の理想を謳うメルヘン映画の主役に口説いていたカナダ人女性カミーレも成り行きで同行し、ふたりはリンゴ農家にたどり着く。肉体労働で使い物にならないユリアンを尻目に、カミーレはありもしない映画の準備に没頭し、奇跡を信じるホンとサンチョという友達もできる。さらには、アメリカン・ドリームを掲げた模範的労働者や、不思議な僧侶も現れ混乱を深める。
ラードルマイヤー監督の長編デビューは、政治的態度を模索する今日の若い世代が抱えるジレンマを独特のコメディータッチで描き2017年のベルリン国際映画祭で大きな反響を得た。
監督:ユリアン・ラードルマイヤー
キャスト:ユリアン・ラードルマイヤー、デラ・キャンベル、キョンテク・イ、ベンヤミン・フォルティ
希望の灯り
2018年 / 125分 / ドイツ語(日本語字幕つき)
旧東ドイツのとある巨大スーパーで働き始めたクリスティアンは、その未知の小宇宙にそっと降り立つ - 長い通路、延々と続く商品棚、フォークリフトのシュールなメカニズム。軽い気持ちでクリスティアンの気を惹こうとするマリオンに、クリスティアンは恋をしてしまう。ところが急にマリオンは職場に来なくなり、落ち込むクリスティアンは、かつての惨めな生活に引き戻されていく。
ステューバー監督は、壁崩壊から30年、旧東ドイツの地方で単純労働者として運命を共にする人々の生活と、その密接な人間関係をこれまでとは違った視座から描いた。現実、憧れや夢などが堅実にフレーミングされた映像の中に収められ、巨大スーパーの冷たい宇宙は、魔法をかけられたような空間に変貌する。
監督:トーマス・ステューバー
キャスト:フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルト
明日吹く風
2018年 / 97分 / ドイツ語(日本語字幕つき)
これまでの人生を捨ててしまうことはいつだってできる。今すぐにでも。その電車から、車から、自転車から降りてどこかに行ってしまえばいいのだ。43歳のパウル・ツァイゼは、普通だったら振り払ってしまうこんな考えをある日実行に移してしまう。妻、仕事、すべての身分と地位を捨てて。気のいい役立たずとして人にたかりながら放浪するパウル。勝手に人の車に同乗し、呼ばれてもいないパーティーや葬式に参列する。そしてある日、少し風変わりなネレと出会い恋に落ちる。次第に自分のペースにパウルを引き込んでいくネレ。
ユリアン・ペルクセン監督は長編デビューとなる本作で、現代の忙しい生活から逃れて気ままな暮らしに身を置いた時に待ち受ける混乱を、ユーモラスかつメランコリックに描いている。
監督:ユリアン・ペルクセン
キャスト:セバスチャン・ルドルフ、ニルス・ボアマン、エファ・レーバウ
マニフェスト
2017年 / 95分 / 英語(日本語字幕つき)
『マニフェスト』ではオスカー女優ケイト・ブランシェットが時に教師、また時にホームレスとなり、ポップ・アートからドグマ95まで、20世紀のさまざまな芸術の潮流を作り上げた宣言を13のエピソードで演じる。映像作家ユリアン・ローゼフェルトによる監督のもと、国や時代、社会的身分や性別を越えたキャラクターを一人で演じきるブランシェットの演技力は圧倒的だ。作中、未来派やダダ、フルクサスなど、芸術組織のテキストや、芸術家個人の思索を監督が編集、13のコラージュに再構成した。芸術におけるマニフェストとは、新しいものを生み出す可能性と、教義として凝り固まる危険を併せ持つ。この映画は、そのマニフェストのアンビバレントな役割を見事に描き出している。
監督:ユリアン・ローゼフェルト
キャスト:ケイト・ブランシェットほか
ソーシャルメディアの“掃除屋”たち
2018年 / 88分 / 英語・タガログ語(日本語字幕つき)
世界規模でデジタルコンテンツ検閲を行うマニラの巨大な影の産業を追ったドキュメンタリー映画。そこでは、シリコンバレーに委託され、何万人というコンテンツ・モデレーターが、フェイスブック、YouTube、ツイッターなどの問題のある投稿を削除している。残酷な表現に継続的に晒される作業は、作業員たちの認識能力や人格に異常をもたらすが、作業に関わる経験は口外厳禁だ。本作はコンテンツ・モデレーターを取り上げながら、フェイクニュースやヘイト・コンテンツがネットを通じて拡散・扇動される様子を映し出す。
監督のブロックとリーゼヴィークは、この作品でソーシャルメディアの理想と夢が破れる様を描き出し、その社会への重大な影響力に警鐘を鳴らす。
監督:ハンス・ブロック、モーリッツ・リーゼヴィーク