プロジェクトの一環として、生徒たちは裁判官、裁判員、検察官、弁護士、被告人、証人の役割をそれぞれ引き受けました。2回のオンラインミーティングと対面でのプロジェクトを通じ、参加者たちは積極的に意見交換を行い、割り当てられた役割のグループで熱心に取り組みました。異なるPASCH校から集まった生徒たちの活発な意見交換は特に目を見張るものがあり、プロジェクトの成功に大いに貢献しました。
と日本でドイツ人弁護士として働くDr.カルメン・アッペンツェラー氏がコーチとなり、生徒たちに両国の法制度についての深い見識を与えてくれました。お二人の講義は、法的な知識を提供するだけでなく、日本とドイツの法制度の関連性を示し、また国際弁護士としてのキャリアを具体的に知り、また特に模擬裁判で実際にどのような議論を展開するかについてのアイデアを得る、生徒たちにとって非常に刺激的な内容でした。
プロジェクトには文化的な側面も展開され、グリム兄弟の童話の成立背景と関連付けた「ヘンゼルとグレーテル」の物語が語られ、また、ソプラノ歌手笠恵里花氏とアルト歌手池澤真子氏によるオペラ「ヘンゼルとグレーテル」からのアリアを鑑賞し、生徒たちは魅了されていました。
2024年7月14日、私はMockCourtプロジェクトに参加しました。プロジェクトの主な内容は、参加者が「裁判官&裁判員グループ」「弁護士グループ」「検察官グループ」「証人グループ」「被告人グループ」の5つのグループに分かれて、弁護士の石塚先生やアッペンツェラー先生のご指導やご協力のもと、ドイツ語を交えた模擬裁判を行うというものでした。私は「裁判官&裁判員グループ」の裁判長を務めさせていただきました。裁判で扱った事件はドイツのグリム童話の一つである「ヘンゼルとグレーテル」を少し改変したものです。
当日は午前中にグループごとで話す内容や戦略を議論したあと、午後に模擬裁判が行われました。
裁判は、皆が起立している状態の法廷に、裁判官・裁判員たちが登場し、裁判官(私)が無言で着席するとそれを見た皆も着席する、という厳粛な雰囲気の中始まりました。私はその時、私がこの裁判を統括しているんだ、と改めて感じたのを覚えています。序盤は順調に進みました。それぞれの立場の人が、それぞれの役割になりきり感情込めて演じているのを見て、本物の裁判が行われているような気がしました。途中、私たち裁判官が、被告人を弁護する側の証人の意見や、検察側が提示した証拠写真の説明を聞きそびれてしまったため、不完全な状態ではあったのですが、なんとか一通り裁判の審理を終えることができました。
そして私たち裁判官と裁判員達は、別室へ移動し、被告人が有罪か無罪かを決める評議を行いました。これが、頭を抱えるほど難しかったのです。というのも上述した通り、証言されるはずであった話や情報が自分たちの不手際でされなかったために、断片的な証言を手がかりにして私たちは判決を下す必要がありました。最大の論点は「グレーテルがお婆さんを殺す意図があったかどうか」という点でした。審議の時間は始めは15分と決められていましたが、結局延長して30分の時間を設けていただきました。皆で最後の最後まで頭をひねり意見を出し合って、なんとか一つの判決にたどり着きました。そうして、私たちが法廷に戻り裁判が再開すると、判決言い渡しの時間です。言い渡すのは私です。まずはドイツ語で、その後日本語で皆が注目する中、次のように言い渡しました。"Im Namen des Volkes ergeht folgendes Urteil: Die Angeklagte wird freigesprochen."「被告人を無罪とする。」上記の判決によりグレーテルは無罪となり、裁判は終了しました。
判決を決めるのは本当に困難を極めました。事件の背景やその時の曖昧な状況を鑑みると、グレーテルが有罪である可能性は十分にあったのです。しかし有罪であることを決定づける十分な証拠を裁判の中で得ることができなかったため、「疑わしきは罰せず」の原則の下、無罪であるとの意見で皆が一致しました。
今回の模擬裁判を通して、ドイツ式の裁判の中でドイツの文化の新たな一面に触れることができたと思います。例えば、ドイツ語で判決を述べたときの冒頭のフレーズ「Im Namen des Volkes」、これは「国民の名において」という意味だそうです。それを述べた後にドイツでは判決を下します。一方、日本の裁判の判決の際には、判決のみを言い渡します。ドイツでは、司法への国民の参加が重視され、尊重されていることがよく伝わってきました。
また模擬裁判の中で、裁判官を実際に演じることによって判決の難しさを私は感じることができましたし、他の役割を演じた人たちも彼ら独自の発見や学びがあったことと思います。
このような希少な機会を設けていただいたPasch関連の皆様、石塚先生アッペンツェラー先生、その他の皆様に感謝申し上げます。