東アジアのデジタルプラットフォームとスーパーアプリ

Illustration of map of East Asia, most popular apps and mobile applications noted on Korea, Hong Kong, Taiwan and Japan. © Yukari Mishima

デジタルプラットフォームは、ニュースの制作と発信において重要な役割を果たすようになってきており、新たな公共圏のメディアとして、また人々が公共問題を議論する公的な場として機能している。しかし、いくつかのソーシャルメディアプラットフォームやスーパーアプリは、フェイクニュースやデマの拡散にも利用されており、民主主義に害を及ぼし、社会の分断を深化させる可能性がある。東アジアのいくつかの国は、報道の自由や言論の自由を損なう恐れがあるにもかかわらず、フェイクニュースを抑制するための規制措置を取っている。
デジタルプラットフォームは、デマ(世論に影響を与えたり、真実を曖昧にしたりするために、故意に、そして通常は密かに流布される偽の情報)やフェイクニュースを21世紀初めに世界中に広める上で、極めて重要な役割を果たしてきた。しかし、主要なデジタルプラットフォームやその利用方法は地域によって大きく異なる。グローバルサウスの各地とは異なり、アジアのいくつかの国は、独自の主要なプラットフォームを開発している。アジアでは、YouTubeのようなインターネットユーザーが生成するコンテンツを載せた特定のプラットフォームや、各種のソーシャルメディアネットワークが、「スーパーアプリ」や「メガプラットフォーム」と呼ばれ、検索エンジン、ニュース、デジタルゲーム、天気予報[ER1] 、メッセージアプリなどのさまざまなデジタルサービスを統合することで、結果として「さまざまなプラットフォームのプラットフォーム」を形成している。そのビジネスモデルやインターフェイスはアジアのサブカルチャーを反映しているが(Steinberg, 2020)、アジアのプラットフォームの顧客はグローバルなデジタルプラットフォームもあわせて利用している。

本稿では、日本、韓国、台湾に焦点を当て、東アジアで使われているプラットフォームの多様性を説明し、それらの間の主な違いについて論じる。またスーパーアプリとは何か、そして東アジア地域のローカルな特異性を背負いながらスーパーアプリがどのように進化してきたかを説明する。さらに、デマの発信と撲滅というスーパーアプリの2つの役割と、各プラットフォームでのフェイクニュースやデマの問題の深刻さについて論じる。最後に、この世界的な課題を食い止めるための取り組みについて検討する。
Cartoon-Design, das die vielfältigen Services von Kakao als Super-App kreativ visualisiert.

Die südkoreanische Super-App Kakao umfasst neben einer Messaging-Plattform auch einen Bezahldienst, Spiele und weitere Funktionen. | © Yukari Mishima

東アジアのスーパーアプリ

2000年代に入ってから、東アジア諸国ではデジタルプラットフォームが台頭している。米国、英国、カナダを含む欧米諸国では、特にMeta社(Facebook、WhatsApp)やGoogle社(YouTube)のような一握りの米国系デジタルプラットフォームが各国の市場をほぼ独占しているが、それとは異なり、東アジアの一部の国では、既存の米国系プラットフォームに寄り添う形で、ローカルプラットフォームや地域のデジタルプラットフォームが成長している。

韓国は、ローカルプラットフォームを開発し、発展させる主要な原動力となっている。インターネット革命の後発国でありながら、韓国は2000年代初めから、特にNaverやKakaoのような「スーパーアプリ」とも呼ばれるメガプラットフォームをいくつか開発してきた。多くの韓国人は、多数の機能がある中で、モバイルゲーム、GPS、ニュース、天気予報などの用途でこれらのスーパーアプリを利用している。GoogleやYahooといった世界的なプラットフォームリーダーが検索エンジンを重視してきたのに対し(Jin, 2023)、NaverやKakaoは、LINEやKakao Talkといったインスタントモバイルメッセンジャーを生み出し、これらはやがてスーパーアプリとなった。

Kakao Talkは、韓国のモバイルメッセンジャーおよびソーシャルメディア分野で最も成功したデジタルプラットフォームとなった。2010年3月のリリース以来、Kakao Talkは、日常生活や職場においてパソコンからスマートフォンへの広範な転換を牽引し、さらなる機能性と機動性を実現する大きな原動力となった。Kakao Talkは、FacebookやTwitter(現X)のような世界的なソーシャルメディアプラットフォームを瞬く間に追い抜いた後、自社プラットフォームをさらに拡大し、韓国で最大のソーシャルネットワーキングサービスとなった(Choi, 2013)。NaverがWebポータルに重点を置いた一方、KakaoはKakao Talkを使ってインスタントメッセージング市場で優位に立ち、そのユーザー数は2023年1月に4,790万人に達した。これは国内のスマートフォンユーザーの94%に相当する数字だ。NaverのアプリであるBandのグループチャットサービスの利用者数は、2023年10月時点で1,950万人である。

日本では、NaverのLINEが、多種多様なサービスを組み合わせたスーパーアプリとして機能している。LINEは、日本の全人口の85%が利用している最も人気のあるメッセージアプリであるだけでなく、モバイル決済、証券取引、銀行、保険、ニュース、ゲーム、求人検索、マンガ、音楽など50以上のサービスを提供している。LINEは台湾でも、Facebookを2018年に抜いて以来、Dcardを含むいくつかの現地ソーシャルメディアプラットフォームとの競争にも勝ち、最大のデジタルプラットフォームとなった。日本と台湾ではLINEの使い方が異なる。日本ではLINEはスーパーアプリとして機能しているが、台湾では主にメッセージアプリとして使われており、FacebookやInstagramのような米国系のソーシャルメディアプラットフォームとの熾烈な争いがある(OOSGA, 2023)。

スーパープラットフォームもフェイクニュースを拡散

東アジア諸国は、デジタルプラットフォームの利用法や、特にその世論に対する影響力の拡大に関して、多様な見解を持っている。これらのプラットフォームの中には、人々のためになる情報やニュースを提供する代わりに、偽情報やデマを拡散するものもある。かつてはラジオ、テレビ、新聞といった従来型のメディアが公共圏を支配していたが、1990年代半ばにデジタルメディアが出現して以来、激変が起きている(Kim and Jin, 2024)。

東アジア諸国のメディア環境は国々で異なる。韓国では、NaverとKakaoが公共圏における主要なデジタルプラットフォームとして強力な地位を確保している。2023年の韓国言論振興財団(Korea Press Foundation)のレポートによると、2023年時点でも国民の76.2%がテレビでニュースを得ており、僅差でオンラインニュース(73.5%)、そして新聞(10.2%)、ラジオ(7%)が続いている。インターネットポータルサイトの中ではNaverが圧倒的な存在感があり、多くの韓国人がNaverのいわゆる「ニューススタンド」でニュースを読んでいる。しかしNaverは、メディア学者やその他の専門家から、ニュースを支配し、巧みに操作していることもあるとして批判を受けてきた。

デジタルプラットフォームは、偽情報やデマを広く流布することで、東アジアの公共圏に悪影響を及ぼしている。韓国の政治や文化は、デジタルプラットフォームが経済的利益を得る目的で作成、拡散するフェイクニュースのために損なわれてきた(Kim and Jin, 2024)。その例としては、国政選挙(大統領選挙と総選挙の両方)におけるフェイクニュースやデマの拡散のほか、K-POPスターや有名俳優などのセレブやいくつかの大手上場企業に関するデマの流布が挙げられる。大統領選の有力候補に関するフェイクニュースを含むデマをソーシャルメディア上で拡散することで、国政選挙などの政治プロセスを壊そうとするYouTuberもいた(Sheehy et al., 2024)。

韓国人の約77%は、真っ当なニュースを装ったフェイクニュースや偽の情報をソーシャルメディア上で見聞きしたことがある。韓国言論振興財団の2021年のレポートによると、ほとんどの韓国人がNaverやKakaoのような国内のプラットフォームからニュースを得ているにもかかわらず、YouTube(58.4%)やFacebook(10.6%)のような米国系のデジタルプラットフォームがフェイクニュースを拡散したとして広く非難されている。他の東アジア諸国でも、ソーシャルメディアプラットフォームによるほぼ類似した公共圏の歪みが生じている。Huizhong Wu氏は、CityNews Torontoで次のように書いている。「台湾では、さまざまな種類のデマが氾濫している。ワクチンに関する陰謀論から、サプリメントの宣伝を目的とした健康関連の主張、そして台湾の大企業が台湾から撤退するといった噂まで、人々の生活のあらゆる面に影響を及ぼしている」(Wu, 2024)。欧米系のソーシャルメディアプラットフォームがフェイクニュースの主な発信源となっている韓国や日本とは異なり、台湾ではLINE(47%)がフェイクニュース拡散の主犯であり、YouTube(44%)をわずかに上回っている。しかし、台湾ではFacebook(41%)からフェイクニュースを広めるユーザーもいるため、総合的に見れば、デマの大部分はグローバルなデジタルプラットフォームの責任だと言えるだろう(表1)。KakaoやLINEを含むアジア系のソーシャルメディアプラットフォームは主に、「情報を共有するというよりも、家族や友人、同僚に個人的なメッセージを送る」ために使われている(日本の総務省、2018年)。まとめると、YouTube、Facebook、Xといった米国系のソーシャルメディアが、特定のアジア諸国におけるフェイクニュースやデマの主な作成者・発信源であり(Cato et al., 2021)、アジア系のメディアもそれに加担しているという状況である。

偽情報やデマの拡散の規制

世論の反発を受け、独立したファクトチェック組織が世界中に誕生し、グローバル・国内を問わず、多くのプラットフォームがフェイクニュースやデマと闘う取り組みを展開している。また、最近、アジアのさまざまなデジタルプラットフォームで偽情報やデマが急増している中で、アジア各国のいくつかの政府は、フェイクニュースの拡散を抑える法案を可決しており、放送局やデジタルプラットフォーム企業を含むさまざまな民間組織も、同じ目的のために各種の措置を講じている。デジタルプラットフォーム、人工知能(AI)、アルゴリズムなどの先端技術の乱用や悪用を最小限に抑えるため、韓国を含むアジアのいくつかの政府は、開発者とユーザーの行動規範を明確に定めた倫理憲章も制定している。しかし、こうした規則、規制、憲章は、多くの場合、拘束力のないガイドラインに過ぎないために効果が薄い。

例えば2023年、ソウル中央地検は、フェイクニュースを取り締まる特別捜査チームを結成した。韓国の検察は、国政選挙中にソーシャルメディアプラットフォームを含む複数のメディアが「虚の情報を公に流すことで世論を歪めようとした」と告発し、選挙目的のデマの「重大事件を速やかに捜査し、全容を解明する」と述べた(Lee, Cho, and Jo, 2023)。2022年5月、韓国文化体育観光部(MCST)は、政府の出資機関である韓国言論振興財団に「フェイクニュース通報・相談センター」を設置したが、一部の批評家からは、メディアの論調を統制しようとする政府の行き過ぎた取り組みであると次のように非難された。「いわゆるフェイクニュースを『悪意ある情報の蔓延』として分類し、通報・相談用の独自のセンターを設立することで、政府は事実上、自分自身を真実の裁定者に仕立て上げようとしている。……この施策は、権力の乱用の可能性と報道の自由のさらなる侵食について重大な懸念を抱かせるものだ」(Jang, 2024)。

一部のメガプラットフォームは、独自の規制の仕組みを構築している。例えばNaverは、ニュースの配信に対する管理を強化し、それによってアクセス可能なニュースソースの多様性を減らした結果、報道の自由に対する潜在的な脅威となっている(Kim and Jin, 2024)。Naverは特定のメディアと契約し、そのニュースをNaverのニューススタンドに掲載しているが、そうした契約の数は明らかにしていない。主要なデジタルプラットフォームの1つとして、Naverは独自の倫理規範を起草し、策定している。2024年には、Naverニュースサービスが市民としての責任を果たし、公正さと透明性を高める目的で、非政府職員だけで運営される独立したNews Innovation Forumを設立した(Lee, 2024; Kim, 2024)。そしてNaver、Kakao、およびさまざまなニュースメディアのアライアンスのために2015年に設置されたNews Alliance Evaluation Committeeという別の組織が、ニュースのアルゴリズムとNaverの編集・ニュース解説方針のレビューを開始した。現在ではAIアルゴリズムもフェイクニュースやデマを生み出して流布するようになったことから、Kakaoはアルゴリズムがもたらす結果の偏りを防ぐ措置を講じ、機械学習目的のデータ利用を規制する倫理基準を打ち出した(Kakao, 2018)。しかし、その有効性はまだいかなる独立機関の調査によっても確認されていない。

日本でも、コロナ禍、ウクライナ戦争、2022年7月の安倍晋三元首相の射殺事件などを含む最近の出来事のために、フェイクニュースやデマの危険性に対する意識が高まりつつある。これを受けて、東京のNPOが2022年10月、ジャーナリストや学者で構成された日本ファクトチェックセンターを設立した(ロイタージャーナリズム研究所、2023)。

台湾に話を戻すと、行政院(政府の行政機関)が、Webサイトに載った誤報を特定する機能を設けることで、フェイクニュースの拡散に対抗している。同様に台湾の開放文化基金会(Open Culture Foundation)は、2018年5月に「Cofacts」というAI主導のファクトチェックを行うユーザー向けのチャットボットを導入し、フェイクニュースと闘っている(Cha, Gao, and Li, 2020)。MyGoPenや台湾ファクトチェックセンターなどの他の取り組みも、個々のユーザーから報告された噂が誤りであると証明することで、世論の意識を高めようとしている(Klepper and Wu, 2024)。

このように、東アジアの各国の政府は、フェイクニュースやデマを抑えるために規則や規制を制定し、さまざまな対策を講じている。しかし、「フェイクニュースのファクトチェックは依然として困難であり、人手での調査には膨大な時間と労力を要する。さらに、チェック対象のトピックが複雑であるため、効率が低くカバー範囲が不十分になりがちで、ネット上での虚偽情報の迅速な作成と拡散に追いつくことができない」(Cha, Gao, and Li, 2020)。

近年のソーシャルメディアは、社会全般において、また特に東アジア全域でのフェイクニュースやデマの拡散において、非常に重要性を増している。しかし、これらの国々ではメディア環境が多様であるため、共通する特徴を特定することは難しく、ソーシャルメディアの利用法、ソーシャルメディア主導のフェイクニュースによる影響、デジタルプラットフォームを規制するために取られた措置などの面で、顕著な違いもある。

執筆者

Dal Yong Jin
カナダのバンクーバーにあるサイモンフレーザー大学の特別教授。主な研究・教育分野は、デジタルプラットフォームとデジタルゲーム、グローバル化とメディア、トランスナショナル文化研究、およびメディアと文化の政治経済学。主な著書:『Korea’s Online Gaming Empire』(2010年)、『Digital Platforms, Imperialism and Political Culture』(2015年)、『New Korean Wave: Transnational Cultural Power in the Age of Social Media』(2016年)、『Artificial Intelligence in Cultural Production: Critical Perspectives on Digital Platforms』(2021年)、『Understanding Korean Webtoon Culture: Transmedia Storytelling, Digital Platforms, and Genres』(2022年)。