東アジア諸国は、デジタルプラットフォームの利用法や、特にその世論に対する影響力の拡大に関して、多様な見解を持っている。これらのプラットフォームの中には、人々のためになる情報やニュースを提供する代わりに、偽情報やデマを拡散するものもある。かつてはラジオ、テレビ、新聞といった従来型のメディアが公共圏を支配していたが、1990年代半ばにデジタルメディアが出現して以来、激変が起きている(Kim and Jin, 2024)。
デジタルプラットフォームは、偽情報やデマを広く流布することで、東アジアの公共圏に悪影響を及ぼしている。韓国の政治や文化は、デジタルプラットフォームが経済的利益を得る目的で作成、拡散するフェイクニュースのために損なわれてきた(Kim and Jin, 2024)。その例としては、国政選挙(大統領選挙と総選挙の両方)におけるフェイクニュースやデマの拡散のほか、K-POPスターや有名俳優などのセレブやいくつかの大手上場企業に関するデマの流布が挙げられる。大統領選の有力候補に関するフェイクニュースを含むデマをソーシャルメディア上で拡散することで、国政選挙などの政治プロセスを壊そうとするYouTuberもいた(Sheehy et al., 2024)。
韓国人の約77%は、真っ当なニュースを装ったフェイクニュースや偽の情報をソーシャルメディア上で見聞きしたことがある。韓国言論振興財団の2021年のレポートによると、ほとんどの韓国人がNaverやKakaoのような国内のプラットフォームからニュースを得ているにもかかわらず、YouTube(58.4%)やFacebook(10.6%)のような米国系のデジタルプラットフォームがフェイクニュースを拡散したとして広く非難されている。他の東アジア諸国でも、ソーシャルメディアプラットフォームによるほぼ類似した公共圏の歪みが生じている。Huizhong Wu氏は、CityNews Torontoで次のように書いている。「台湾では、さまざまな種類のデマが氾濫している。ワクチンに関する陰謀論から、サプリメントの宣伝を目的とした健康関連の主張、そして台湾の大企業が台湾から撤退するといった噂まで、人々の生活のあらゆる面に影響を及ぼしている」(Wu, 2024)。欧米系のソーシャルメディアプラットフォームがフェイクニュースの主な発信源となっている韓国や日本とは異なり、台湾ではLINE(47%)がフェイクニュース拡散の主犯であり、YouTube(44%)をわずかに上回っている。しかし、台湾ではFacebook(41%)からフェイクニュースを広めるユーザーもいるため、総合的に見れば、デマの大部分はグローバルなデジタルプラットフォームの責任だと言えるだろう(表1)。KakaoやLINEを含むアジア系のソーシャルメディアプラットフォームは主に、「情報を共有するというよりも、家族や友人、同僚に個人的なメッセージを送る」ために使われている(日本の総務省、2018年)。まとめると、YouTube、Facebook、Xといった米国系のソーシャルメディアが、特定のアジア諸国におけるフェイクニュースやデマの主な作成者・発信源であり(Cato et al., 2021)、アジア系のメディアもそれに加担しているという状況である。
例えば2023年、ソウル中央地検は、フェイクニュースを取り締まる特別捜査チームを結成した。韓国の検察は、国政選挙中にソーシャルメディアプラットフォームを含む複数のメディアが「虚の情報を公に流すことで世論を歪めようとした」と告発し、選挙目的のデマの「重大事件を速やかに捜査し、全容を解明する」と述べた(Lee, Cho, and Jo, 2023)。2022年5月、韓国文化体育観光部(MCST)は、政府の出資機関である韓国言論振興財団に「フェイクニュース通報・相談センター」を設置したが、一部の批評家からは、メディアの論調を統制しようとする政府の行き過ぎた取り組みであると次のように非難された。「いわゆるフェイクニュースを『悪意ある情報の蔓延』として分類し、通報・相談用の独自のセンターを設立することで、政府は事実上、自分自身を真実の裁定者に仕立て上げようとしている。……この施策は、権力の乱用の可能性と報道の自由のさらなる侵食について重大な懸念を抱かせるものだ」(Jang, 2024)。
一部のメガプラットフォームは、独自の規制の仕組みを構築している。例えばNaverは、ニュースの配信に対する管理を強化し、それによってアクセス可能なニュースソースの多様性を減らした結果、報道の自由に対する潜在的な脅威となっている(Kim and Jin, 2024)。Naverは特定のメディアと契約し、そのニュースをNaverのニューススタンドに掲載しているが、そうした契約の数は明らかにしていない。主要なデジタルプラットフォームの1つとして、Naverは独自の倫理規範を起草し、策定している。2024年には、Naverニュースサービスが市民としての責任を果たし、公正さと透明性を高める目的で、非政府職員だけで運営される独立したNews Innovation Forumを設立した(Lee, 2024; Kim, 2024)。そしてNaver、Kakao、およびさまざまなニュースメディアのアライアンスのために2015年に設置されたNews Alliance Evaluation Committeeという別の組織が、ニュースのアルゴリズムとNaverの編集・ニュース解説方針のレビューを開始した。現在ではAIアルゴリズムもフェイクニュースやデマを生み出して流布するようになったことから、Kakaoはアルゴリズムがもたらす結果の偏りを防ぐ措置を講じ、機械学習目的のデータ利用を規制する倫理基準を打ち出した(Kakao, 2018)。しかし、その有効性はまだいかなる独立機関の調査によっても確認されていない。
台湾に話を戻すと、行政院(政府の行政機関)が、Webサイトに載った誤報を特定する機能を設けることで、フェイクニュースの拡散に対抗している。同様に台湾の開放文化基金会(Open Culture Foundation)は、2018年5月に「Cofacts」というAI主導のファクトチェックを行うユーザー向けのチャットボットを導入し、フェイクニュースと闘っている(Cha, Gao, and Li, 2020)。MyGoPenや台湾ファクトチェックセンターなどの他の取り組みも、個々のユーザーから報告された噂が誤りであると証明することで、世論の意識を高めようとしている(Klepper and Wu, 2024)。
このように、東アジアの各国の政府は、フェイクニュースやデマを抑えるために規則や規制を制定し、さまざまな対策を講じている。しかし、「フェイクニュースのファクトチェックは依然として困難であり、人手での調査には膨大な時間と労力を要する。さらに、チェック対象のトピックが複雑であるため、効率が低くカバー範囲が不十分になりがちで、ネット上での虚偽情報の迅速な作成と拡散に追いつくことができない」(Cha, Gao, and Li, 2020)。
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Dal Yong Jin
カナダのバンクーバーにあるサイモンフレーザー大学の特別教授。主な研究・教育分野は、デジタルプラットフォームとデジタルゲーム、グローバル化とメディア、トランスナショナル文化研究、およびメディアと文化の政治経済学。主な著書:『Korea’s Online Gaming Empire』(2010年)、『Digital Platforms, Imperialism and Political Culture』(2015年)、『New Korean Wave: Transnational Cultural Power in the Age of Social Media』(2016年)、『Artificial Intelligence in Cultural Production: Critical Perspectives on Digital Platforms』(2021年)、『Understanding Korean Webtoon Culture: Transmedia Storytelling, Digital Platforms, and Genres』(2022年)。