ピクトグラム絵本『ピクトグラムはかく語りき』~移民難民との共生を考える~ 2024年10月 27日
PASCHワークショップ
ミグランタスとの出会いは10年以上前、偶然、インターネットで彼女たちのピクトグラムを目にしたことからでした。以来、いつか、芸術家のマルラとグラフィックデザイナーのフロレンシアからなるミグランタスのピクトグラムを日本に紹介したいと思っていました。というのは、そこには、住み慣れた家を離れ、見知らぬ土地に暮らす移民難民たちの様々な心のうちがシンプルかつ見事に表現されていたからです。見る人の心を揺さぶる彼女たちの視覚言語・ピクトグラムに私はすっかり魅了されました。
それから十数年、私はようやく、その願いを叶える機会を得ました。しかも、PASCHプロジェクトの枠内で、かつて勤務していた学校の生徒さんや元同僚たちとともに、です。この間、日本でも移民難民や外国人市民との共生というテーマがますます重要視されるようになりました。その中で、ミグランタスのピクトグラムを使ったワークショップは、若い人たちが移民難民の実態を知り、彼らとの共生を考えるのにまさにうってつけだと思いました。
ワークショップではまず、「日本とドイツの移民難民の受け入れ状況について」と題する講演を行いました。これによって、移民と難民の定義や移民難民の受け入れにおける日独の違い、彼らとの共生というテーマの重要性について理解を深めてもらいました。次に、ミグランタスのピクトグラムを紹介し、そこに吹き出しを付けるアクティビティーを行いました。ミグランタスがこれまで移民難民たちとのワークショップで作り上げてきたピクトグラムには、いずれも重要なメッセージが含まれています。それを読み取ったり、自分なりの解釈を加えたりすることで、移民難民をより身近に感じることができると考えました。
ワークショップのメインイベントは絵本作りでした。具体的には、難民の子どもたちの実話を読んで翻訳し、場面ごとにそこに合うピクトグラムを選んだり、自作したりして貼り付けていきました。さらに、「その難民たちがその後日本にやってきたとしたら?」という課題を設定し、物語の続きを考えてもらいました。
実際、参加者たちはこれらの作業を通じて、難民が発生する様々な理由や背景を知ること、また、より具体的に難民たちの置かれた状況やその心情に思いをはせることができたと思います。さらに、最後に物語の舞台を日本に移したことで、難民の問題を自分たちのこととして考えることができました。
そうして出来上がった絵本は、私の期待以上のものでした。ミグランタスからも、「本当に驚き、感激した」とのフィードバックが寄せられています。彼女たちはまた、「どの物語もとてもよく説明されています。私たちの作ったピクトグラムを使うだけでなく、そこに手を加えたり、自分たちの描いた絵を貼りつけたことで、物語のメッセージがより明確なものになっています」と評価してくれました。
しかしながら、ミグランタスも私もこれで終わりだとは思っていません。むしろ、ここから、この成果をもって、PASCH生たちからこの問題を発信して欲しいと思っています。そのために、まずはぜひ、出来上がった作品を学校に持ち帰り、クラス内でこのテーマについて話し合ったり、みんなでドーア、イエヴァ、マリンカ、シナン、ヨーニスのそのまた続きの物語を考えてもらえればと思います。
このワークショップの実施に際してご協力いただいた東京ゲーテ・インスティトゥートおよびPASCH担当の大津さんとスタッフの皆様、当日引率してくださったPASCH校の先生方、ならびにヘルプとして駆けつけてくれた大学生さんたちに心より御礼申し上げます。
名前: 前田直子
所属、学校/ 団体: 博士・元北園高等学校ドイツ語教員
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ウクライナとロシアの戦争が続く中、中東のガザやイスラエル、さらにイエメン、シリア、アフガ
ニスタン、ソマリアといった地域でも戦争が続いています。 私は、昨年ドイツ訪問時にウクライ
ナの避難学生から直接話を聞き、その苦難を知った経験や、ユニセフ国際協力講座を受講して学ん
だ「戦争や飢餓がいつ自分たちにも降りかかるかわからない」という認識は、平和について考える
重要性を再認識させるものでした。
昨年ウクライナから避難した学生との交流や、今年はJugendkurs2024に参加した際、ウクライナの
奨学生と友人になったことで、戦争はテレビやインターネットの話だけではなく、身近で現実的な
問題となりました。
現状、自分にできることは募金や祈りなど小さな行動ですが、最も大切なのは支援を継続し、困難
な状況にいる人々に寄り添い、希望を持ち続けてもらうことだと考えています。
異なる国、性別、宗教の人々と理解し合い、良い関係を築くことがますます難しい世の中になって
いますが、だからこそその重要性が一層増していると思います。
名前: 山口優一
所属、学校/ 団体: 獨協高等学校
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ピクトグラムのワークショップに参加し、チームでピクトグラムを作成する中で、他の参加者との対話や意見交換を通じて新たな視点を得ることができました。同年代の高校生や大学生と協働することで、クリエイティブなアイデアが次々と生まれ、ピクトグラムの表現がより豊かなものになったと感じています。 また、学びながら楽しむことができる内容で、初心者でも親しみやすい構成となっており、非常に価値ある体験でした。このワークショップを通じて多くの知識を得ることができ、移民問題に対する関心がさらに深まりました。
今回、このような素晴らしいワークショップを開催してくださった前田先生に、心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
名前: 狩野晋一朗
所属、学校/ 団体: 獨協高等学校
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このプロジェクトが行われたあたりから、漠然と将来は国外の国際問題に取り組む職に就きたいと考えていたのですが、最近進学する学部を決める過程で、その考えていたことが明確になりました。(いや、まだ十分漠然としているのですが笑、)国連やNGO、JICAなどで働きたいと考えています。
ドーアの話からも分かるように、日本国内と国外(特に途上国)の生活水準というものは、別世界に住んでいると言っても過言ではないほど、著しくかけ離れています。別世界というのは比喩として言っていますが、実際に日本は島国なので、ある意味では容易に覗いたり触れたりすることのできない世界という点で、真実だと思います。
ですから私は、まずは日本から離れて、外界を見る必要があると考えています。今回の話で言えば、ドーアたちを危険な密輸業者の船ではなく、安全な船に乗せ安全な大陸へ移動させてあげる、ことができるのはそれこそ日本のような先進国でしかなせないことです。だからこそ日本がもっと行動を起こすべきだと思うんです。
今回のPasch Projektは、絶望的な暮らしを強いられている、普段見ることのできない難民たちを身近に感じさせてくれました。また、今回は大陸に渡った後の難民の不安定な境遇、精神状態などに焦点が当てられていて、それこそ当人の気持ちになってよく考えてみなければ、なかなかわからないことで、良い視点を得られたと思います。
ピクトグラムというものもいいですね。伝えたいことが一目でわかるので、難民について難しい話を聞かせるよりも、より多くの人に効率的に難民たちの苦悩を伝えることができると思います。
今回のプロジェクトは、難民について、国際問題について、そして私個人の進路について、考える貴重な材料を与えてくれました。
希少な機会をどうもありがとうございました。
名前: 尾崎将太
所属、学校/ 団体: 早稲田大学高等学院