漫画の起源をめぐっては、文化史的アプローチと社会経済的アプローチとの間でいまだに説が異なる。前者では長い文化発展の歴史のみをたどる一方、後者では戦後の日本の驚異的な経済成長と漫画の発展が並行して議論されることが多い(Ingulsrud and Allen 2009)。これら二つの異なる命題について考察したり裁定したりするのは本稿の範囲を超えるので論じない。漫画の時代区分(例えば、12世紀の仏画であるか1950年代のグラフィックテキストであるか)をめぐる違いはあるにせよ、どちらのアプローチも漫画の「日本的」な起源を重視している、ということだけ述べておけば十分だろう。ただし、特に社会経済的アプローチにおいては、明治期以降の「アジア的」および「西洋的」なグラフィック表現によるさまざまな影響が取り沙汰される場合もある。しかし、漫画は単純に見えるものの、一般論として、しばしば公的な言説やイデオロギーを不遜に嘲笑し、逸脱し、さらには退廃をもって遇してきたと言っても間違いではないだろう。
近年では、漫画は学問の正当な研究分野として浮上し、教育目的に活用されることもますます増えている。漫画独自の特性は、生物学から歴史学、言語学習から社会科に至るまで、主にテキストベースの教育に対して効果的な代替手段を提供してきた(Toda and Oh 2021、Iida and Takeyama 2018)。漫画の視覚的な形式は、読むのが苦手な読者や、失読症などの学習困難を抱えている人々にとって、読書の魅力を高めるために役立つ。漫画はまた、複雑な考えを理解しやすいビジュアルやストーリーに分解して、難しい主題を生徒が把握しやすくすることができる。上述したように、歴史、文化、社会問題などを漫画で描けば、読者はこれらの分野についての洞察を得られる。ただし、漫画は「論争」を招くという性質も心に留めておくことが重要である。原爆の使用や日本による従軍慰安婦の搾取のような論議を呼んでいる問題についても、漫画は情報を提供して形を整えるだけでなく、歪曲して議論をそらし、さらには歴史的な根拠を否定する能力も持っている。だが、漫画の中には、複雑なテーマや道徳的矛盾を探求することで、読者に批判的思考を促し、共感力を育むものもある。
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レオ・チン(Leo T. S. Ching)は、デューク大学アジア・中東研究学部の日本・東アジア文化研究教授。帝国研究、ポストコロニアル理論、大衆文化とグローバリゼーション、群島・島嶼研究などのテーマに取り組んでいる。著書:『ビカミング〈ジャパニーズ〉植民地台湾におけるアイデンティティ形成のポリティクス』、『反日:東アジアにおける感情の政治』。