特集
ザンドラ・ヒュラー
変幻する〈わたし〉のかたち
2025.10.3-16
YEBISU GARDEN CINEMA

Filmreihe Sandra Hüller © Goethe-Institut Tokyo

開催概要

ザンドラ・ヒュラーは、現在の映画界でもっとも注目される俳優のひとりです。2023年は、アカデミー賞・国際長編映画賞を受賞した『関心領域』と、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『落下の解剖学』でいずれも主演を務め、その圧倒的な存在感が国際的な評価を決定づけました。またそれに先がけ、2016年に『ありがとう、トニ・エルドマン』で世界中の映画ファンを魅了しています。ザンドラ・ヒュラーの演技は、自己を揺るがしながらも軸を失わず、精神や感情、存在の不確かさを内包し、曖昧さをそのままスクリーンに映し出す。そんな彼女のイメージこそ、まさに芸術といえるでしょう。

今回の特集では、ザンドラ・ヒュラーが出演した代表作と日本未公開作品を通じて、その変幻自在な表現の軌跡をたどります。これまで日本で公開された名作に加え、日本初公開となる『レクイエム』『エリザベートと私』『二対一』の3作品を含む全7本を一挙に上映いたします。  

ザンドラ・ヒュラー

俳優

1978年、ドイツ・ズール生まれ。1996年から2000年までベルリンのエルンスト・ブッシュ演劇芸術大学にて演技を学ぶ。卒業後は、ドイツ語圏の著名な劇場に所属し、舞台俳優として活躍。2003年には演劇誌『Theater heute』より年間最優秀若手女優に選出され、以降2010年、2013年、2019年、2020年には同誌にて年間最優秀女優に選ばれるなど、舞台芸術界で高い評価を受ける。
映画界では、ハンス=クリスティアン・シュミド監督による『レクイエム』(2006年)で鮮烈なデビューを飾り、ベルリン国際映画祭銀熊賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。その後も『ありがとう、トニ・エルドマン』や『ゲンゲンの中で』など、国際的に評価される作品に出演。
2020年には、新型コロナウイルスのパンデミック以降、演劇界や文化産業、そして職業的存続が脅かされている人々の社会的不平等に対して積極的に声を上げた功績が認められ、ドイツ連邦共和国功労勲章を授与される。
2023年には、主演を務めた『落下の解剖学』(ジュスティーヌ・トリエ監督)および『関心領域』(ジョナサン・グレーザー監督)がカンヌ国際映画祭でそれぞれ受賞し、世界的な注目を集める。両作品は翌年のアカデミー賞にもノミネートされ、それぞれ受賞を果たす。現在ではハリウッド作品にも出演しており、サンドラ・ヒュラーはドイツを代表する国際的な俳優の一人として活躍している。
彼女が登場人物に与える深み、真実味、そして強さは、息をのむほど見事だ。
ジャスティーヌ・トリエ(『落下の解剖学』監督)

上映作品

  • 『落下の解剖学』

    人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に殺人容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ〈真実〉が現れるが――

    第76回 カンヌ国際映画祭 パルム・ドール受賞
    第81回 ゴールデングローブ賞 脚本賞 & 非英語圏作品賞 W受賞
    第96回 アカデミー賞 脚本賞 受賞

    原題:Anatomie d'une chute|2023年|フランス|カラー|ビスタ|152分|5.1chデジタル|G
    監督・脚本:ジュスティーヌ・トリエ|共同脚本:アルチュール・アラリ
    出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ
    字幕翻訳:松崎広幸|配給:ギャガ
    ©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma

    落下の解剖学 ©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma ©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma

  • 『関心領域』

    アウシュビッツ強制収容所の隣にある屋敷で、ひと組の家族が暮らしている。父は収容所の所長、母は庭を整え、子どもたちは草の上を走る。青空が広がり、日常の音が満ちるその家のすぐ向こう側では、煙突から絶え間なく黒煙が立ち上っている。家族の会話の背後に、壁の向こうの気配が確かに存在している。誰もそのことを言葉にしないまま、穏やかに時が流れていく――

    第76回 カンヌ国際映画祭 グランプリ受賞
    第96回 アカデミー賞 国際長編映画賞 & 音響賞受賞 W受賞

    原題:The Zone of Interest|2023年|イギリス・アメリカ・ポーランド合作|105分|G
    監督・脚本:ジョナサン・グレイザー|原案:マーティン・エイミスの同名小説
    出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
    字幕翻訳:松浦美奈|配給:ハピネットファントム・スタジオ
    © Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023 

    関心領域 © Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023 © Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023

  • 『希望の灯り』

    ライプツィヒ近郊の田舎町に建つ巨大スーパー。在庫管理係として働きはじめた無口な青年クリスティアンは、一緒に働く年上の女性マリオンに恋心を抱く。仕事を教えてくれるブルーノは、そんなクリスティアンを静かに見守っている。少し風変わりだが素朴で心優しい従業員たち。それぞれ心の痛みを抱えているからこそ、互いに立ち入りすぎない節度を保っていたが――

    第68回 ベルリン国際映画祭コンペティション部門 正式出品
    2018 ドイツ映画賞4部門ノミネート(長編映画賞/主演男優賞<受賞>/助演女優賞/撮影賞)
    原題:In den Gängen|2018年|ドイツ|125分|G
    監督:トーマス・ステューバー|原作:クレメンス・マイヤー「通路にて」
    出演:フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー
    字幕翻訳:大西公子|配給:彩プロ
    © 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

    希望の灯り © 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH © 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

  • 『ありがとう、トニ・エルドマン』

    ブカレストで働く娘イネスとの距離に悩む陽気な父ヴィンフリート。突然訪ねてきた彼に、イネスは戸惑いながらも数日を共に過ごす。だが一度帰国したはずの父は、「トニ・エルドマン」と名乗る奇妙な人物になりきり、再び娘の前に現れる。かけがえのない絆を取り戻すために、正反対の父娘が、ふざけた仮面の奥で、少しずつ心を通わせていく――

    第69回 カンヌ国際映画祭 国際批評家連盟賞 受賞
    第89回 アカデミー賞 外国語映画賞 ノミネート

    原題:Toni Erdmann|2016年|ドイツ・オーストリア合作|162分|PG12
    監督・脚本:マーレン・アーデ
    出演:ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー
    字幕翻訳:吉川美奈子|配給:ビターズ・エンド
    © Komplizen Film

    ありがとう、トニ・エルドマン © Komplizen Film © Komplizen Film

  • 日本初公開

    『エリザベートと私』

    19世紀末。結婚も修道院も拒んだハンガリーの伯爵令嬢イルマは、母に命じられ、孤独に暮らすオーストリア皇后エリザベート(シシィ)の侍女となる。ギリシャ・コルフ島の女性だけの館で、風変わりな皇后に振り回されながらも、イルマはやがて彼女に心を奪われていく。装いも暮らしも皇后に合わせ、共に旅を重ねるうちに、ふたりの関係は歪んだ共依存へと変化する――

    第73回 ベルリン国際映画祭 パノラマ部門 正式出品
    2023 ドイツ映画賞 最優秀衣装賞 受賞

    原題:Sisi & Ich|2023年|ドイツ・オーストリア・スイス合作|カラー|132分|
    監督・脚本:フラウケ・フィンスターヴァルダー
    出演:ザンドラ・ヒュラー、スザンネ・ヴォルフ、ゲオルク・フリードリヒ
    字幕翻訳:吉川美奈子|日本初上映
    ©2023 Frauke Finsterwalder / Walker + Worm Film / MMC Independent / C‑Films AG / Dor Film Produktionsgesellschaft

    エリザベートと私 ©2023 Frauke Finsterwalder / Walker + Worm Film / MMC Independent / C‑Films AG / Dor Film Produktionsgesellschaft ©2023 Frauke Finsterwalder / Walker + Worm Film / MMC Independent / C‑Films AG / Dor Film Produktionsgesellschaft

  • 日本初公開

    『二対一 東ドイツ通貨統一の夏に発見した大切なこと』

    1990年夏、ある東ドイツの町。幼なじみのマーレン、ロベルト、フォルカーは、旧体制下で廃棄されるはずだった大量の紙幣が詰まった地下坑道を発見する。貨幣価値を失った金を手に、彼らは仲間と協力し、物資と交換するための独自の流通網を築き上げていく。自由と混乱が交錯する統一前夜、西側資本主義に小さな反旗を翻すその行動は、やがて人生を揺るがす大きな冒険へと発展していく――

    第41回 ミュンヘン国際映画祭 ニュージャーマンシネマ部門 正式出品

    原題:Zwei zu Eins|2024年|ドイツ|100分|
    監督:ナーチャ・ブルンクホルスト|脚本:ナーチャ・ブルンクホルスト
    出演:ザンドラ・ヒュラー、マックス・リーメルト、ロナルト・ツェアフェルト、ぺーター・クルト
    字幕翻訳:吉川美奈子|日本初上映
    © 2024 Row Pictures GmbH, Zischlermann Filmproduktion GmbH, Lichtblick Film & TV Produktion GmbH, ZDF, ARTE

    二対一 東ドイツ通貨統一の夏に発見した大切なこと © 2024 Row Pictures GmbH, Zischlermann Filmproduktion GmbH, Lichtblick Film & TV Produktion GmbH, ZDF, ARTE © 2024 Row Pictures GmbH, Zischlermann Filmproduktion GmbH, Lichtblick Film & TV Produktion GmbH, ZDF, ARTE

  • 日本初公開

    『レクイエム』

    1970年代、ドイツの田舎町。てんかんを抱えるミヒャエラ・クリングラーは、敬虔な母に反対されながらも教育学を学ぶため大学に進学する。新たな生活を始めた彼女は、旧友ハンナと再会し、医療的な助けを受けるよう促される。しかし発作の再発を機に薬を断ち、「悪魔に取り憑かれた」と信じるようになる。心の闇を深めていくミヒャエラの前に、彼女の信仰を揺るがす2人の神父が現れる――

    第56回 ベルリン国際映画祭 コンペティション部門 銀熊賞<最優秀女優賞>
    2006ドイツ映画賞 長編映画賞

    原題:Requiem|2006年|ドイツ|カラー|93分|
    監督:ハンス=クリスティアン・シュミット|脚本:ベルント・ランゲ
    出演:ザンドラ・ヒュラー、ブルクハルト・クラウスナー、イモゲン・コッゲ
    字幕翻訳:吉川美奈子|日本初上映
    ©2006 Hans‑Christian Schmid/23/5 Filmproduktion GmbH

    レクイエム ©2006 Hans‑Christian Schmid/23/5 Filmproduktion GmbH ©2006 Hans‑Christian Schmid/23/5 Filmproduktion GmbH

ザンドラ・ヒュラーのために新しい受賞部門を開設すべきだ。
ジョナサン・グレイザー(『関心領域』監督, 2023年カンヌ国際映画祭で)

上映スケジュール・ゲストトーク

チケットは上映3日前より YEBISU GARDEN CINEMA にてお申込みいただけます。
 

 
日付 上映開始 上映作品 上映時間 トーク
10月3日(金) 16:00 『落下の解剖学』 152分  
  19:00 『二対一』 100分 吉川美奈子(字幕翻訳者)※21:10終了予定
10月4日(土) 16:00 『レクイエム』 93分  
  19:00 『関心領域』 105分  
10月5日(日) 13:00 『レクイエム』 93分 ザンドラ・ヒュラー特別インタビュー映像上映 ゲスト:月永理絵(映画ライター)※15:30終了予定
  16:00 『ありがとう、トニ・エルドマン』 162分  
10月6日(月) 16:00 『希望の灯り』 125分  
  19:00 『エリザベートと私』 132分 村上由鶴(写真研究・美術評論、『アートとフェミニズムはだれのもの?』著者)※21:45終了予定
10月7日(火) 16:00 『二対一』 100分  
  19:00 『落下の解剖学』 152分  
10月8日(水) 16:00 『エリザベートと私』 132分  
  19:00 『希望の灯り』 125分 松永美穂(ドイツ文学者、翻訳家、早稲田大学文学学術院教授)&杵淵博樹(クレメンス・マイヤー「夜と灯りと」翻訳者、東京女子大学教授)※21:45終了予定
10月9日(木) 16:00 『ありがとう、トニ・エルドマン』 162分  
  19:00 『レクイエム』 93分  
10月10日(金) 16:00 『エリザベートと私』 132分  
  19:00 『二対一』 100分  
10月11日(土) 16:00 『関心領域』 105分 山崎まどか(コラムニスト)
  19:00 『ありがとう、トニ・エルドマン』 162分  
10月12日(日) 16:00 『二対一』 100分  
  19:00 『エリザベートと私』 132分  
10月13日(月祝) 16:00 『落下の解剖学』 152分  
  19:00 『ありがとう、トニ・エルドマン』 162分  
10月14日(火) 16:00 『レクイエム』 93分  
  19:00 『エリザベートと私』 132分  
10月15日(水) 16:00 『二対一』 100分  
  19:00 『関心領域』 105分  
10月16日(木) 16:00 『希望の灯り』 125分  
  19:00 『レクイエム』 93分  

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