PASCH 模擬裁判 『ヘンゼルとグレーテル』
7月14日に株式会社TKC飯田橋の法廷室にて開催されたPASCHプロジェクト「模擬裁判」では、グリム兄弟のドイツの童話「ヘンゼルとグレーテル」を題材に、28人の熱心なPASCH生たちが司法の分野で創造的に取り組む機会を提供しました。このプロジェクトの目的は、参加者に法制度への深い理解を促し、彼らが法曹や裁判官などの役割を担い、童話に基づいた架空の事件を審理することでした。
日本からは一般社団法人刑事司法未来代表・龍谷大学名誉教授 石塚伸一氏と日本でドイツ人弁護士として働くDr.カルメン・アッペンツェラー氏がコーチとなり、生徒たちに両国の法制度についての深い見識を与えてくれました。お二人の講義は、法的な知識を提供するだけでなく、日本とドイツの法制度の関連性を示し、また国際弁護士としてのキャリアを具体的に知り、また特に模擬裁判で実際にどのような議論を展開するかについてのアイデアを得る、生徒たちにとって非常に刺激的な内容でした。
プロジェクトには文化的な側面も展開され、グリム兄弟の童話の成立背景と関連付けた「ヘンゼルとグレーテル」の物語が語られ、また、ソプラノ歌手笠恵里花氏とアルト歌手池澤真子氏によるオペラ「ヘンゼルとグレーテル」からのアリアを鑑賞し、生徒たちは魅了されていました。
- 未成年としては普段接することが少ない法廷の構造と手続きを理解するのに非常に役立ちました。
- 他校の生徒との交流、活発な議論、法廷のような設備での実施など、多くの気づきを得ることができ、参加してよかったです。現在、私自身は法学を学ぶ予定はありませんが、法制度の整った国の国民として、積極的に法に関わっていきたいと思います。
- 石塚先生の流暢な語りに魅了され、時間を忘れてしまいました。彼のドイツでの体験は非常に興味深く、ドイツとドイツ語への愛が強く伝わってきました。
- 法律関係の仕事に興味があるので、アッペンツェラーさんの講演はとても興味深かったです。ドイツから日本に来て弁護士として働いている人の話を聞く機会はめったにないので、このような話を聞けてよかった。
- オペラというと難しい題材を扱うことが多いというイメージがあったので、ヘンゼルとグレーテルというとても親しみやすい題材がよく上演されていることに驚きました。ヘンゼルとグレーテル、ソプラノとアルトの掛け合いは力強く印象的だった。
- 法律以外にも、留学の話やドイツのさまざまな面についての話も興味深かった。
PASCH生、尾崎将太さん(早稲田大学高等学院3年)からコメントが寄せられました:
裁判官として
2024年7月14日、私はMockCourtプロジェクトに参加しました。プロジェクトの主な内容は、参加者が「裁判官&裁判員グループ」「弁護士グループ」「検察官グループ」「証人グループ」「被告人グループ」の5つのグループに分かれて、弁護士の石塚先生やアッペンツェラー先生のご指導やご協力のもと、ドイツ語を交えた模擬裁判を行うというものでした。私は「裁判官&裁判員グループ」の裁判長を務めさせていただきました。裁判で扱った事件はドイツのグリム童話の一つである「ヘンゼルとグレーテル」を少し改変したものです。
当日は午前中にグループごとで話す内容や戦略を議論したあと、午後に模擬裁判が行われました。
裁判は、皆が起立している状態の法廷に、裁判官・裁判員たちが登場し、裁判官(私)が無言で着席するとそれを見た皆も着席する、という厳粛な雰囲気の中始まりました。私はその時、私がこの裁判を統括しているんだ、と改めて感じたのを覚えています。序盤は順調に進みました。それぞれの立場の人が、それぞれの役割になりきり感情込めて演じているのを見て、本物の裁判が行われているような気がしました。途中、私たち裁判官が、被告人を弁護する側の証人の意見や、検察側が提示した証拠写真の説明を聞きそびれてしまったため、不完全な状態ではあったのですが、なんとか一通り裁判の審理を終えることができました。
そして私たち裁判官と裁判員達は、別室へ移動し、被告人が有罪か無罪かを決める評議を行いました。これが、頭を抱えるほど難しかったのです。というのも上述した通り、証言されるはずであった話や情報が自分たちの不手際でされなかったために、断片的な証言を手がかりにして私たちは判決を下す必要がありました。最大の論点は「グレーテルがお婆さんを殺す意図があったかどうか」という点でした。審議の時間は始めは15分と決められていましたが、結局延長して30分の時間を設けていただきました。皆で最後の最後まで頭をひねり意見を出し合って、なんとか一つの判決にたどり着きました。そうして、私たちが法廷に戻り裁判が再開すると、判決言い渡しの時間です。言い渡すのは私です。まずはドイツ語で、その後日本語で皆が注目する中、次のように言い渡しました。"Im Namen des Volkes ergeht folgendes Urteil: Die Angeklagte wird freigesprochen."「被告人を無罪とする。」上記の判決によりグレーテルは無罪となり、裁判は終了しました。
判決を決めるのは本当に困難を極めました。事件の背景やその時の曖昧な状況を鑑みると、グレーテルが有罪である可能性は十分にあったのです。しかし有罪であることを決定づける十分な証拠を裁判の中で得ることができなかったため、「疑わしきは罰せず」の原則の下、無罪であるとの意見で皆が一致しました。
今回の模擬裁判を通して、ドイツ式の裁判の中でドイツの文化の新たな一面に触れることができたと思います。例えば、ドイツ語で判決を述べたときの冒頭のフレーズ「Im Namen des Volkes」、これは「国民の名において」という意味だそうです。それを述べた後にドイツでは判決を下します。一方、日本の裁判の判決の際には、判決のみを言い渡します。ドイツでは、司法への国民の参加が重視され、尊重されていることがよく伝わってきました。
また模擬裁判の中で、裁判官を実際に演じることによって判決の難しさを私は感じることができましたし、他の役割を演じた人たちも彼ら独自の発見や学びがあったことと思います。